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2017年7月18日

林みのるの勝手に独り言–「ドライバーJの提言」


レーシングコンストラクター童夢の創始者林みのるさんが、“素浪人”になって2回目の夏がやってきた。夏をもっとホットにするのか、ヒヤリとするのか受け取り方はいろいろおありでしょうけれど。久々に、独特の林節。

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何故か、やたらに忙しい隠居生活となっているし、夜も、いろいろとお誘いが多いから相変わらずなので、まだ隠居生活の実感は無いが、ここ2年くらい、レース時にサーキットに出向いたことが無いし、釣り友以外のレース関係者ともほとんど会ったこともない。だから、確実にレース界とは疎遠になっているし、今や、自分がそこにいたという実感も無いほど遠い世界となっている。

先日、あるレース雑誌からルマン後に感想を取材したいという申し出があったので、一応、観ておかなくてはと思って最初と最後だけTV中継を観たが、自分自身がオリジナル・マシンを作ってルマンに何回も挑戦していたなんて信じられないほど、TVの画面に展開される華麗な戦いは、遠くて凄くて手の届かない別世界に見えたものだ。

このように、レース界だけは完全に隠居している私だが、先日、facebookで知り合いのレーシング・ドライバー(以下J)の投稿をみたら、何とかいうサッカー選手の書いたコラムが紹介されていて、そこには多分、「選手の一人一人が観客動員に努力すべき」というような主旨の話が書かれていたのだろう。そのJは、「ドライバー諸君も、このような努力をすべき」と呼びかけていた。

前もって言っておくが、私は、このJのことは大好きだし、ドライバーとしての能力も高く評価していたし、今まで言ったことは無いが、ドライバー引退後、暇だったら童夢に来ないかと声をかけていたくらいだから、人としては認めている。加えて、これはJ個人を責めているのではなく、このJも含めた日本のレース界のほとんどの人たちが同じように考えているから、どちらかと言うと、「J、お前もか!」とか「お前だけは解っていると思っていた」というような買いかぶりから、思わずキーボードに向かってしまったという次第だ。

しかし私は、ここ10数年は、うわ言のように同じことを言い続けてきたし、レース界のほとんどの人が聞く耳を持たなかったから、また、同じうわ言を繰り返すことに気恥ずかしさもあるが、以前は、私がレーシングカー・コンストラクターだったから「我田引水」とか「利益誘導」のように捉えられがちだった。

その点、今は、天下の素浪人だから私利私欲に基づく発言は当たらないし、自動車メーカーに遠慮することも無い立場だから、新たなるスタンスから、もう一度、日本の自動車レースについて意見を述べてやろうという気になった訳だ。

何が言いたいのかと言うことは、以前に「GAZOO Racing」のホームページの「クルマとモータースポーツの明日」に寄稿したコラムが、私のホームページである「林みのるの穿った見方」に掲載されているので参照していただければご理解いただけると思うが、簡単に言うと、ドライバーが努力して何とかなる話なら自動車レースは興行だと言うことだ。

自動車レースを興行だと思っているのなら、それはまるで、歌舞伎をスポーツとして盛り立てようとか、相撲をエクササイズとしてアピールするくらい的外れな勘違いだ。

いくら何でも、単にドライバーが車の運転技術を競い合うという競技に、現在の金のかかり過ぎるレーシングカーの存在は無意味だし、そのために巨額な開発費をだそうという奇特な人もいない。そうであれば、オートレースや競艇のように、競技機器としてのレーシングカーは徹底したコストダウンとイコールコンディションが要求されるだろうし、だったら、安いワンメイク・レーシングカーで十分だ。

レーシングカーはゴルフクラブやラケットとは違う。その巨額な開発費や運用経費は誰が何の為に負担するのか、その理由と構造をしっかりと把握しておかないと何も見えてこないし、レーシングカーは誰かが勝手に作ってドライバーの為に用意してくれるもの、巨額なレース費用も誰かが払ってくれるものという他力本願な前提で、そのお膳立てが揃った環境から自動車レースをメジャーにしたいと言っても、売れないお菓子の中身はそのまま、パッケージだけ変えて売り上げ向上を図ろうという、お粗末な話にしか過ぎない。

現実の日本の自動車レースの構造は単純だ。その予算のほとんど全てを自動車メーカーに依存しているのだから、詰まるところ、日本のレース界は自動車メーカーのお大尽遊びのお座敷と太鼓持ちのようなものだ。

現状、日本の自動車レースを盛んにしたいのであれば、単純に、自動車メーカーが予算を倍増すれば自動的に日本の自動車レースの規模は倍になるし、予算が半分になれば自動的に日本の自動車レースの規模は半分になるだけの話であり、それだけの話だ。

日本のレース界の全ての人が、どこかの自動車メーカーにしがみ付いて生きているし、その、おんぶに抱っこの依存体質は、それはもう、空気と水のように当たり前で、そもそも、その空気を浄化しようとか水を豊かにしようという発想は皆無だ。

しかし、自動車メーカーのレース予算が安定的に供給されている現状において、それに頼りきっている限り、日本のレース界に自立性の欠片もないし、毎年、その規模はほとんど変わらないのだから、この安穏たる環境から、一歩、踏み出して、本当の意味で日本の自動車レースの発展振興を目指す事は困難と言わざるを得ない。

これは、アメリカと日本の関係に似ていて、最早、日本人に「従属させられている」という概念も無いほど常態化しているから、当然、そこから踏み出そうという発想にも至らない。

私が最も望んでいる改革は、全自動車メーカーが自動車レースから全面撤退することだ。日本の自動車レースが、いつまでもマイナーな存在である理由は、日本の自動車レースの発展振興に何のビジョンも持たず、惰性のように、漫然とその場しのぎのレース活動を続ける自動車メーカーの不見識にあるし、その安定的なぬるま湯にふやけ切ったレース業界には、最早、革命家も冒険家もいない。

40年以上も前の事だが、1973年に発生したオイルショックの影響で、それまで社運をかけて自動車レースに邁進していた自動車メーカーが突然に撤退してしまったことから、今ほどではないにしろ、その多くを自動車メーカーの金に頼っていた日本のレース界は誰もが壊滅すると心配したし、現実、お先真っ暗だったが、その自動車メーカーが立ち去った後の荒れ地に芽吹いてきたのが、本当に自動車レースが大好きで、それしか興味の無いプライベーターのチームやレーシング・ガレージだった。東名自動車、シグマオートモーティブ、ノバエンジニアリング、トムス、童夢などが設立されて、その後のレース界をけん引していく原動力になる。

また、レースシリーズとしても、富士グランチャンピオンレース、全日本F2000選手権、日本F3チャレンジカップ、FJ1600等がスタートするなど(このあたりWikipediaのコピペ)、日本グランプリでのビッグ3の戦いは観られなくなったが、プライベーター達によって、しっかりと、日本の自動車レースの未来を切り開く礎が築かれていった。
また、1990年代に最も盛んだった全日本ツーリングカー選手権(JTCC)は、自動車メーカーが熱中しすぎたために、1998年、突然に消滅してしまった。日本のレース界も幅広く関与していたが、その自動車メーカーのお大尽遊びから取り残された人たちは、自らの活躍の場として、1993年よりGTを中心とした「全日本GT選手権レース(JGTC)を立ち上げ、プライベーターが楽しめるレースとして育ててきていた。

JTCCを持ち上げたかと思えば、今度は床に叩きつけた自動車メーカーは、次の予算の浪費先としてJGTCをターゲットに選び、そこになだれ込んだ結果、現在の、自動車メーカーの紐つきしか勝てないスーパーGT になっている。現状、スーパーGTを主宰するGTAの大株主は自動車メーカーであり、彼らの我田引水で付け焼刃なレギュレーション変更の積み重ねが、スーパーGTを自動車レースから遠ざけているし、無意味に高騰を続けるレーシングカーの開発費の意味も説明が付かなくなってきているから、遅かれ早かれ、メインのGT500は消滅する。

◆少しだけ可能性の高い提言
このように自動車メーカーは、手前勝手な理由で出たり入ったりしてきた時代もあるが、だからと言って、日本から自動車レースが消えたためしは無いし、却ってそこには、本物の自動車レースが浮き彫りにされて来た。

今、これを読んでいるほとんどの人が、自動車メーカーのレースからの撤退は有り得ないし空論に過ぎないと思っているだろうから、では、もう少しだけ可能性の高い提案をしよう。

これからも、自動車メーカーがレース界に資金供給を続けてくれることを前提に、最も効率よく日本の自動車レースを発展振興させる方法は、日本のレース界が協力して、その資金を海外に流出させないように誘導することだ。

土台、素人とサラリーマンばっかしの自動車メーカーの担当者と、この道数十年の生粋のレース屋なんだから、自動車メーカーの担当者たちも、結局はレース界の人たちの意見を聞きながら施策を練っていく。だから、ドライバーを始め、自動車メーカーと接触のあるレース界の人たちが機会があるごとに言い続ければ影響力を与えることは難しくないと思うが、難しいのは、そもそも、レース界の人間に理解が無いから、結局、たいした将来も保証できないのにマイナーな世界に若者を引っ張り込む「ドライバー育成事業」や、POBで勝ちを持ち回りするようなプロレスまがいのレースなどの似非自動車レースばかりがはびこる結果になる。

もう、かなり手遅れだが、F1やルマンやスーパー・フォーミュラやGT500のDTMパーツやFCJやツーリングカーの製作やレース活動などなど、どれだけのレース資金が海外に流出して二度と戻ってこないか解っているのか?  Dallaraにいくら大金を支払っても、Dallaraが儲かるだけでありDallara の技術力が向上しDallaraの規模が拡充し、日本の自動車レースは、どんどんDallaraに依存しなければ成り立たなくなっていくだけだ。この状況を冷静に俯瞰すれば、お先真っ暗な日本の自動車レースの将来が見えてくるだろう。

JRPが、現在のスーパー・フォーミュラのシャシーを選定する時、手付金が用意できないので後払いで良いなら国産にしてもよいという話があった。
苦し紛れの国産化案に過ぎないが、JMIAあたりでは受け入れるべきとの声もあったが、当時のJRPのトップから、今までのDallaraの輸入代理店を通してもらえば採用の可能性が高まるという話があり、キッパリと断ったら、この話も流れた。

まあ、もう少し裏話もあるし他の例もあるが、それはそれとして、このように、日本のレース界には、レーシングカーは輸入するという不文律があるかのごとくに輸入に頼り国産化を蔑ろにしてきたが、それは基本的には特定の一企業の利益追求のためであり、そこに日本の自動車レースの将来を慮るという配慮はどこにもない。

もし、これらの海外に流出した資金が国内に向けられていたとしたら、その資金は日本の自動車レース産業界を潤し、レース好きのそれらの企業はその資金をレースに使い、そうして、その資金は日本のレース界を還流して規模を拡大していくだろう。

例えば童夢も、自動車メーカーのレーシングカーを開発することで利益を上げていた部分もあるが、余裕が生まれれば、それらの資金をJAF-F4やスーパーFJやマザー・シャシーやFIA-F4の開発に投じてレース界に還元しているし、もちろん、全てを社内で製作している訳では無いから、当然、外注先(日本の自動車レース産業界)も潤うことになる。

当然、それらのレーシングカーの開発を行うことにより、日本の技術レベルも向上し、開発のインフラも整うことになるから、いずれ、それが産業として成熟し、その優秀な日本製レーシングカーやパーツを求めて海外からレース資金が流入してくるようになるだろうから、つまり、レース界における貿易収支を逆転させる可能性だってある。

夢のある話じゃないか? そうして発展振興を続けるレース界にとって、真っ先に必要となるのが優秀なレーシング・ドライバーなんだから、つまり、私の言っていることはドライバーの需要の喚起と地位向上に尽きるが、一方、ドライバーを中心とするレース界の人達は、振興策と言えば「ドライバーの育成」しか頭になく、万一、それでレースが盛んになったとしても、レーシングカーは海外から買い続けるのだから、そこにはレース産業界への配慮は欠片も無く、自動車レース産業というものを無視した、全くの我田引水な話にしか過ぎないし、木を見て森を見ずとか玩物喪志というのか、とにかく、目先の事しか見えない人ばかりだから、当然、未来は見えていないし、考えもしていない。

しかし、いずれにしても後の祭りだ。非常に近い将来、自動車レースはEVと自動運転に特化されて行くだろうし、その時、遅まきながら、自動車レースがドライバーの腕の競い合いでは無く自動車の戦いだったことを理解するのかもしれないが、「あれっ、僕たち必要ないんだ!」と気が付いた時には全てが終わっているだろう。だから、最後の提言は、自動車メーカーに協力させて、今から、安くてカッコ良くて音が心地よくて丈夫で安全なワンメイク・レーシングカーを使ったドライビング・ショーの世界を確立しておくことだ。

ドリフトが先行しているかもしれないが、アイスショーやブルーインパルスやモトクロスなどショーとして成立しているのだから、そうすれば、時代に流されることの無い、興行としての自動車レースが定着するかもしれないから。

素浪人 林みのる

photo by [STINGER]


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