F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

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	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

要らぬお世話。

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コーナリング中のクルマには、外向きに遠心力がかかっている。なので、ブレーキングすると、前に進む力が失われてベクトルバランスが崩れてスピンする。ブレーキは掛ければいいのではなくて、コーナー手前でしっかり減速しておくこと。プロと素人との最大の違いはここだ。

京都でフェアレディZが子供の列に突っ込んで怪我人を出したらしい。らしい、と軽々しく書いたのは、テレビが寄ってたかって騒ぎすぎだから。

◆負傷したこどもたちはとても気の毒だし、一日も早い心身共の快復を願う。けれど、その一方で、そもそもこうしたニュースを全国放送で流すべきかどうかと常々思う。テレビの論調を見る限り、”こんなことは二度と起きてはいけない”とは言いながら、面白がって、と言っては言い過ぎかもしれないが、騒ぎたくてしょうがない、と取れてしまうのはオレがへそ曲がりのせいか。

◆日本がそんなニュースしかない平和な国である、という実体についてはおいとおくとして、交差点を左折したスポーツカーに乗った18歳の運転手が、要するにうまく曲がれずにガードレールにぶつかって、その反動で反対側にはね飛ばされ、柵を飛び越えて子供の列に突っ込んだらしいが、その”解説”がお粗末きわまりなかった。

◆信楽鉄道の脱線事故の時の鉄道評論家の解説がひどかったことを思い出した。鉄道の専門家といわれるゲストの説は、”カーブの途中でスピードオーバーに気づいたら、ブレーキをかけるべきだった”というようなことだったと思う。スタジオは全員頷いていた。しかし、コーナリングのメカ二ズムがまったく分かっていない。

◆むしろ、そこで増速したら、脱線しなかった可能性がある。力学的にベクトルを考えれば、ブレーキを掛けてはいけないことがすぐにわかる。コーナリング中には遠心力が外側に向かってかかっている。だからスピードが速すぎると外に飛び出すのは道理だが、コーナリング中にブレーキをかけると、前向きのベクトルがゼロになり、横向きの力のすべてが電車にかかる。だから脱線するのだ。

◆今回のアクシデントがどういうふうに起きたのか、現場で見ていたわけではないのでわからない。しかし、テレビの解説は、おしなべて、”スポーツカーに乗った18歳”に集中していた。スポーツカーと若さが起こした過ち、という側面を、誇張して伝えたがっているだけのように見えた。

◆走り屋が好みのワインディングロードでクラッシュの痕跡は、進入部分ではなくて、ほとんど立ち上がり部分に集中しているらしい。何故かといえば、己の持っているエネルギーを知らずにコーナリングを開始するからだ。結果的に曲がり切れずに立ち上がりで当たってしまう。ウマイ人は、コーナー手前のブレーキングで、”旋回できる限界スピード”を把握してそれ以下のスピードにきちんと落している。魔術を使ってコーナリングしているのではない。

◆速い運転=ウマイ、と多くの人が思っているけれど、本当は、ウマイ運転が結果として速いだけ、ってことを、テレビの方々に理解してほしい。ウマイ(速い)人は、自分の置かれた状況を認識する能力が高い人、ということだ。

◆レーサーは、蛮勇なのではなくて、万有引力の法則をきちんと知っていて、その限界を認識し、”その範囲”をギリギリまで突き詰めて走ることができる人、ということだ。

◆時速100km/hが物理的限界のコーナーは、時速99km/hでは遅すぎるが、時速101km/hでは速すぎる。高速からのブレーキングで可能な限りの短時間でピッタリ、さらにはスムーズにその限界スピードに落せること。そういうことを理解していれば、対向車はあるわ人は歩いているわ、自転車やバイクは走るわの街中では、飛ばせなくなるのが道理なのだ。

◆スポーツカーに乗っていようが18歳で免許経験が浅かろうが、そのことをしっかり教えていない日本のやり方にこそ問題がある。テレビが報じてほしいのは、そういう基本的なことだ。


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