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本田宗一郎は羽田空港にマン島選手団を出迎え、「もっとやれ! 俺の家なんか売っ払ったっていいんだ!」と叫ぶのだった。
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「でもね、そんな参戦でも、Hondaは初めてのマン島で、6位を筆頭にして4人のライダーが完走した。そして、3人のライダーの成績による『チーム賞』も獲得した。これは快挙だと思います」
リキさんは語った。そして、「Hondaは、初陣を飾ったといっていいと思う」とも。
たしかに、TTレースに初めて参加して、その時点で「チーム賞」をかっさらうというのは、TTレースの長い歴史でも初めてのことだった。
この事実に現地の人々は驚き、そして、レース後に公開されたHondaのマシンを見て、もう一度驚愕するのだ。「まるで時計のようなエンジン」という有名なフレーズは、このマン島初参加時にHondaに贈られた、現地ジャーナリズムからの賛辞であった。
そうした精密さと、そして、「チーム賞」を導くような製品の「均一性」。そして、こんな「Honda」というメーカーを生んだのは、いったいどこなんだ?……ということでの、「日本」という国の発見!
Hondaのマン島挑戦は、以上のような意味でも、ニュースであり快挙であった。
「よく、ゲイシャ・フジヤマとかいわれるけど、この初めてのマン島のときは、まだ1959年でしょう。日本への外国の認識というのは、それこそ、それ以前の段階だったと思う。そこでいきなり見せられた、緻密なHondaのエンジン! これはほんとに世界を驚かせたと思うね」(大久保)
1959年 マン島TTレース 125ccクラス 結果
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1 タルキニオ・プロヴィーニ MVアグスタ 10周 118.5km/h
2 ルイジ・タベリ MZ 10周 117.8km/h
3 マイク・ヘイルウッド ドゥカティ 10周 116.2km/h
4 フューグナー MZ 10周 115.7km/h
5 カルロ・ウッビアリ MVアグスタ 10周 114.6km/h
6 谷口尚巳 Honda RC142 10周 109.9km/h
7 鈴木義一 Honda RC142 10周 107.4km/h
8 田中てい助 Honda RC141 9周 105.7km/h
9 トミー・ロブ ドゥカティ 9周 105.3km/h
10 パースロー ドゥカティ 9周 104.7km/h
11 鈴木淳三 Honda RC142 9周 102.7km/h
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レースを終え、マン島から羽田空港(当時)に帰ってきた遠征チームを出迎えたのは、本田宗一郎自身だった。そして、「全員が無事でよかった」と、まずはねぎらったあとで、本田宗一郎が以下のように叫んだという伝説が、いまに残る。
「もっとやれ! どんどんやれ! 俺の家なんか売っ払ったっていいんだ、徹底的にやれっ!」
(第十五回・了)
(取材・文:家村浩明)
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