リキさんのレーシング日本史 マイ・ワンダフル・サーキットⅡ

鈴鹿から世界へ

第104回
富士の30度バンクからテクニカルコースの鈴鹿へ

1974年に富士スピードウェイにやってきた5台のF1マシンは、日本のファンの度肝を抜いた。それまで、大排気量のいわゆる“ビッグマシン”は、アメリカとカナダを舞台にするカンナム、つまりカナディアン・アメリカン・チャレンジカップ(CAN-AM)が1968年と1969年に富士スピードウェイで行なわれ、トヨタ、ニッサン、タキレーシングによる“日本グランプリ”で壮絶な闘いを目にしてはいたが、エフワンは別格だった。

----以前もお話しましたが、1974年11月23日、忘れもしないこの日、富士スピードウェイで走った5台のF1に度肝を抜かれた一人ですが。

「そこでモーターレースの雷に打たれたのですね」

----ええ。まさに雷が落ちたようでした。あ、実は、1968年の日本カンナムが、生まれて初めて生で観たレースなのですが、ローリングスタートをヘアピンの土手で待っていた私は、スタートの轟音に、雷が落ちたと思ったので、衝撃は二度目でした!

「アハハ、なるほど。今から50年以上前の話ですから、少年だった編集長は、目を見開き、口あんぐりだったでしょうね」

----ええ、ああいうのをカルチャーショックというのだと思います。それをきっかけに、自動車雑誌を買いあさるようになるのですが、当時は、カンナムが最高と思っていたので、F1の存在を知らず、心酔していた“ビッグマシン”に比べると、車体も小さくて、なんだかピンと来ていませんでした。

「1966年の規則でF1のエンジン排気量が1500㏄から3000㏄に変更になっていますから、ちょうどその頃に興味を持った少年にはF1が小さく感じたかもしれませんね」

----その衝撃があったので、いくらフォーミュラカーの親玉のF1でも、ピンとこなかった、というのが正直なところでした。

「1974年のF1デモランで、その考えが間違いだったと気づいた(爆笑)」

素晴らしい景観のホテル

富士スピードウェイの名物であり、大盛況を博した富士グランチャンピオンシリーズの継続を絶つことになった30度バンク。いまは、苔むす廃墟となっている。

----これも以前お話したロイテマンのブラバムの話ですが、右回りの高速最終コーナー立ち上がりのダートに、左後輪を落としているのにカウンターステアを当ててフルスロットルという(笑)。

「当時の最終コーナーは、シケインがない正真正銘の高速コーナーでしたから。そこでフォーミュラを見直した(笑)」

----まさに!

「元々フォーミュラカーこそレーシングカーの究極の形ですから。今は随分と様変わりしていますが、そもそものフォーミュラカーは、“葉巻型”と呼ばれたように、円柱形のボディと、飛び出した4本のタイヤ、というシェイプてす。そういう形をしているのは、重量配分や軽量化を突き詰めた結果ですからね」

----後々、“ビッグマシン”に比べてフォーミュラカーがひ弱に見えたのは、計量コンパクトだったからだと気がつくのですが。

「そうそう。日本でそのことに気づいたのもそのころで、クルマに限らず、“大きいことはいことはいいことだ♪”という風潮が見直され始めていましたから」

----並行して、富士スピードウェイの専売特許だった私の興味をほぼ独占していた富士グランチャンピオンシリーズを鈴鹿サーキットで開催することになり、グラチャンに対抗する形で鈴鹿で育っていたフォーミュラカーが、星野一義vs中嶋悟の図式で激しさを増して行きました。

「そうでしたね」

----ここで日本を代表するのふたつのレーシングコースの歴史が、その先の流れを決めることになったと思うのですがいかがでしょうか。

----富士と鈴鹿は、高速とテクニカルというくくりで紹介されがちで、まったく異なるレイアウトと思いますが、実際に走る側からはどう見えているのでしょうか。

「根本思想がまったく別物でした」

----次回からは、『その後の富士と鈴鹿』という括りで国内レースの流れを振り返っていきたいと思います。

「そうしましょう」

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楽しみにお待ちいただいた読者のみなさま。第104回の公開が遅延し失礼いたしました。
編集部/著者ともども老体が折からの暑さにやられ、ご迷惑をおかけしました。
引き続きのご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
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第百四回・了(取材・文:STINGER編集部)

制作:STINGER編集部
mys@f1-stinger.com


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