浜島裕英の タイヤ”deep”トーク スペイン/バルセロナ篇
浜島裕英:ブリヂストン・モータースポーツタイヤ開発総括責任者1977年入社、国内レースのレーシングタイヤ開発を、”日本一早い男”星野一義とのコンビで進め、1989年にブリヂストンのF1プロジェクト加わり、DTM(ドイツツーリングカー選手権)や、アメリカのインディカープロジェクトを経た後、1997年よりブリヂストンのF1タイヤ進出とともに中枢として活躍。”F1ソサエティ”では「ハミー」の愛称で呼ばれ人望も厚い。F1全戦の他に、2輪のモトGPやシーズンオフのテストなどを飛び回り、日本にいるのは年間半分だけ。どんな質問にもていねいにかつ正確にレクチャーしてくれるタイヤ博士だ。
◆前回のGP、バーレーンを振り返って
浜島 まず、前回のバーレーンですが、路面の回復が非常によかったんで、スーパーソフト・タイヤがよく「働いた」のではないかと思います。そのへんの”読み”をちょっと間違えちゃったのがトヨタ・チームだったのではないかなとも思います。
ただ、土曜日のGP2のレースとかそのへんを見てれば、午後の3時を過ぎると、急に気温が下がってきて、グリップの”タレ”が減る、またムービングも減るというのは(トヨタは)ご存じだったと思うので、そこはちょっと残念だったかな、と――。
◆組み合わせとしては、マレーシアと同じ
今回ですが、タイヤはソフトとハードの二つを持ってきてます。これは、マレーシアのときと同じですね。それで、今日走った感じでは、ソフト、ハードともに「作動領域」に入っています。ただ一部のチームから、ハード側のタイヤが温まりにくいという声はあります。
実際にブロウン・グランプリでも、「温まるのに5周くらいかかるよ!」とバトン選手はコメントしてます。それにくらべると、ソフトの方は「2周目からちゃんと行けるよ」ということなので、そのへんの特性の違いは十分にでているのではないかと思います。
ただ、ロズベルク選手は、ハードでも「1.5周あれば温まる」というようにコメントしてますので、これについては、チームによって若干バラツキがある感じですね。
◆ソフトとハード、タイム差は0.3秒?
それで、ソフトとハードのタイム差は「0.5秒」くらい。何チームかがロングラン(のテスト)をちゃんとやっていて、そこからのデータということですが、ただ、フェラーリだけは(差が)1秒くらいあるので、この数字が平均に影響して「0.5」というようになってるんですけど、ほかのチームの場合は、実際は「0.3~0.4」くらいなのではないかと見ています。
フェラーリは、ハード側のタイヤが「あまりよくない」とコメントしてますので、そこからも、(いい)タイムがでてないのは、このへんからなのかなと思ってます。
また、「デグラデーション」ですが、レース半分くらいの距離を走ったとしてのタイムの”落ち”は、ソフトが2.33秒、ハードが2.18秒で、非常に差が少ないです。
……ということで、ソフトでもハードでも、そんなに大きく”タレる”ということはないので、各チームともに、ソフトをメインにして(決勝は)使ってくるのではないかと見ています。
ベッテル(フェッテル)選手がロングランをきちんとやっていたので、彼のデータがわかりやすいかもしれませんが、ベッテル選手は、「9周くらいすると(タイヤは)タレるんだけど、でも(燃料が減って)クルマが軽くなっているので相殺される」というようにコメントしてました。また彼は、コンマ3~4秒(0.3~0.4秒)くらい、グリップの差でハードの方が遅くなるともいってましたね。
◆フェラーリもトヨタも、沈んでいるわけではない!
浜島 あと、見た目(タイム)では、フェラーリとかトヨタとか、沈んでるように見えますけど、しかしこの二つのチームはそう悪くないと思います。
今日はウイリアムズのタイムがよかった? ……うーん、たぶん! たぶんですよ! レッドブルとブロウン・グランプリがアタマひとつ抜けてるんではないかと思いますけどね。
今日のトヨタは、FP(フリー・プラクティス)1をソフトからスタートしたんですよね。それで、路面がどんどんよくなってきたんで、ハードでもけっこういいタイムがでてしまった。ただ、それは路面のせいもあるんで、そのへんで評価を間違えないように、FP2では、もう一度比較するために、中古のタイヤを使ってテストやってた。それで、あんまりタイムがでてないんです。
ちなみに路面温度は、FP1のときがスタートが24度、終わりが33度。FP2では、スタートが39度、終わりが37度でした。
◆タイヤが”あったまる”とはどういうことか?
それと、バトン選手が「あったまりにくい」といってる件ですが、同じチームのルーベンス(バリチェロ)は、ハードは3周あれば十分、ソフトは1.5周であったまるといってるんで、これは多分にドライバーの感覚というのが絡んでくることのようです。
ドライバーは、ガツッと(グリップ感が)来たときに「あったまった!」と思うので、この感覚がジワジワ来ると、わかりにくいというか、あったまらないと感ずるか……。タイムはそこそこでていても、そういう感覚(温まらない!)を持ってしまうことがあります。
おそらくドライバーは、グリップが「来る!」というのは、フロントタイヤの「重さ」から感じ取ってるので、この場合はルーベンスとジェンソンですが、ドライバーによってその感じ方が違うのではないかと思ってますけど。
ムカシにF2レースに、予選用タイヤがあったときに実験したんですけど、なだらかにグリップが上がっていくようなタイプのタイヤですと、ドライバーはわかりにくいというか……。いきなりグリップが立ち上がるような仕様にしておくと、「これはあったまりやすい」というコメントになることはありましたから。