GPホットライン 10/18 ブラジル
2009年第16戦ブラジルGPには、二人の日本人ドライバーが出場した。いうまでもなく、中嶋一貴と小林可夢偉である。それぞれウィリアムズとトヨタのマシンを駆っての参戦だったが、想像以上の活躍で、”日本人ドライバーの可能性”をF1GPに刻んでくれた。
巡り合せの悪さから二人は接触してしまうが、これを含めて、ブラジルGPで二人のジャパニーズは、F1シーンに深く記憶されることになった。
◆「一貴らしさ」と「可夢偉らしさ」
羽端恭一(以下、羽端) ブラジルGPは凄まじいレースでしたね!
[STINGER-山口正己(以下[STG]) 最近、バトルが激しくなって、面白い反面、なんだか怖いような(笑)。
羽端 小林可夢偉と中嶋一貴の接触もあったし。
[STG] ですね。レース後の二人のコメントの、ニュアンスが違っていたのが面白かった。
羽端 あれ、二人のコメントって、内容的に、そんなに違いますか? レースという”試合形式”では、しばしば、起こり得ることとして、相互に了解しているようにも読めましたが?
[STG] たしかに。しかし、我慢した中嶋一貴と、シレッとして、まったく悪びれなかった小林可夢偉という差があったと思います。
羽端 ああ、そういう違いですね。
[STG] 中嶋一貴の対応を、中嶋一貴ではない他の誰かが言ったコメントだったら、背伸びのやせ我慢に聞こえる。また、小林可夢偉の対応を、小林可夢偉ではない他の誰かがしたのだとしたら、責任逃れの小生意気に見えたかもしれない。
羽端 うーん、なるほど。
[STG] けれど、そうではなかった。二人とも”正当な判断と受け止め方をした”という意味では同じでしたが、立場が逆だったら、たぶん、こんな風になったのではないかな、と。
羽端 ピットアウトしてきたのが一貴で、可夢偉はストレートをカッ飛んできたとしたら?
[STG] そういうシチュエーションだったら、
可夢偉 「冗談やめてほしいですよ」。
一貴 「行かせたくなかったので、ちょっと無理してしまいました」。
という答えになっていたかも。
羽端 あー、そういう感じ。なるほど、そうかもしれない。そういう微妙な部分ね。でも基本的には、当の二人も、関係者も、レースだから……というように考えていて、だから、たとえば抗議とかいうことも、誰もしてない?
[STG] それはその通り。二人とも、それから周囲も「レースを分かっている」ということでしょうね。レース・ディレクターからもペナルティの動きがなかったし。
◆日本人ドライバーのレースを止めてしまったことが……
羽端 可夢偉が「謝りたい」といったのは、相手が一貴だったからではないですかね? ぶつかったことよりも、「日本人のレース」を止める原因になってしまったことが残念だ、ごめん! ……ということで?
[STG] ですね。可夢偉は、案外、神経が細かくて気遣いができる奴ですから。
羽端 あと、場所が、ピットアウト直後ということもあるのでは? つまり、”ありがち”なところでのアクシデントで?
[STG] う〜ん、状況からすると、ピットから出た直後の小林可夢偉は、ある意味遠慮すべきだったともいえますね。ペース的にピットアウト直後は確実に遅いので。
羽端 だから、トゥルーリとは違っていて……。スタート直後にスピンしてレースを終えたヤルノ(トゥルーリ)が、(エイドリアン)スーティルに押し出されたと怒ったのは、普通のコーナーだったからでは?
[STG] 状況が僅かに違いますからね。J.トゥルーリとA.スーティルのケースは、同じ状況でお互いがよく見えていた後の出来事だった。でも、いずれ”レーシング・インシデント”ではあったですね。レースではよくある、というやつ。
羽端 そういえば、可夢偉は(一貴は)見えなかったと言ってますね。
[STG] A.スーティルはA.スーティルの判断があった。ただし、J.トゥルーリからみれば、”ちゃんとこっち見ろよ!”みたいな。で、見る時間があったはず、というのがJ.トゥルーリの言い分だけれど、その抗議をオフィシャルの制止を訊かずに現場でA.スーティルにやったことにペナルティが課せられたわけです。
羽端 でも、サーキットによっては、ピット出口と1コーナーとの関係が「アブネーなあ!」というのが、ときどきありますよね?
[STG] それはピットを出たクルマが確実に遅いからですね。もちろん当事者であるドライバーもそんなこと分かっているけれど、だからって、ピットアウトした方が”お先にどうぞ”にはならない(笑)。だからヒヤッとする場面があるんだけれど、やり合ってる方はそれなりに余裕があると思いますよ。
羽端 そうなんでしょうね、当事者は。ピットから出てくるクルマがあること、ピットアウトしたときにコース上に他車がいること。これはみんなが了解済みで、だから、出た方も、すでにいる方も、ヒラッ!ピッ!……と、必要なだけ動いて、避ける。
[STG] ですね。
羽端 今回の小林可夢偉と中嶋一貴の接触は、その「ヒラッ!」が、
・可夢偉は、レコードラインにすぐに入ろうとした。
・一貴は、ここで、前に出なければならなかった。
……ということで、それが同じタイミングになって、また、ヒラッと動いた方向が、たまたま、二人にとって、バッドな方向に重なってしまった……?
[STG] ですね。小林可夢偉は退く必要はなかったけれど、それを”阿吽の呼吸”で避けられるようになれば、信頼感が生まれて、いいバトルができるようになる。しかし、遠慮しすぎて信頼感ばかり高まっても意味がない訳で(笑)。
◆初めてのレースで、完走した自分に文句を言う男!
羽端 それにしても、可夢偉って”超えてる”やつ!(笑) 初めてF1のグリッドについた感動なんて、まったくなかったのね!
[STG] 質問した私としては、「信号がぼやけて見えました。汗が目に入ったみたいで」とか答えて欲しかったけど(笑)。
羽端 それは、一貴のお父さんの悟さん?
[STG] そう、デビュー戦
の1987年のブラジルで言ったことですね。しかし、時代は変わった。中嶋悟さんの時は、”F1ドライバーになること”こそ日本人にとって夢物語だった。ドライバーの感覚は進化しているということかと。こっちはずっと止まったまま(笑)。
羽端 だから、レースが終わっても、「あーあ、できなかったなあ! でも、やったこと、ないことだもんなー! それは、今日は、できないよなー!」としか、言ってない(笑)。
[STG] いい意味で”F1″を過大に意識していない。
羽端 可夢偉の親御さんは、たぶん白戸三平の『カムイ伝』を読んでいて。そして、主人公の才能あふれる”忍び”の名前に、漢字を充てた。でも、その漢字は「夢を可能にする、偉いやつ!」というもので。こいつ、ひょっとしたら、その字の通りに、日本人の夢を可能にしてくれるんじゃないだろうか?!
[STG] で、私としては、来年のトヨタは、中嶋一貴/小林可夢偉のコンビになってほしいな、と。
羽端 お、大胆な! でも、いいですね!
[STG] ポイント圏内で日本人同士がバトルをするなんて、いままで考えたこともなかったですからね。久々にワクワクするレースでだった。だからトヨタがこのコンビになったら、毎回ドキドキできる(笑)。
羽端 そうですね!
[STG]運転のうまさは、実は中嶋一貴の方が上という見方があります。今年は巡り合せ悪いけれど、二人のコンビは、かなりおもしろいと思います。
羽端 日本をルーツにするチームらしくて、いい。でも、どっちが速いかな?
[STG] 予選は一貴、レースでは可夢偉、みたいなパターンかな。チームメイトになったらお互い刺激しあって、もっと面白いことになるかも。
◆キミ・ライコネンは陽動作戦中!?
羽端 トヨタは、K.ライコネンに来年の話をしているというウワサがありますね。
[STG] どうやらK.ライコネン・サイドは、トヨタとの交渉を”活用”しようとしているだけではないかという見方もあります。
羽端 ふーん、やるな!(笑)
[STG] トヨタに提示させる契約金を他チームに伝えて、「トヨタはこれだけ出すと言っている」という材料に使う。
羽端 うんうん!
[STG] だからトヨタには、目が飛び出すくらいの金額を提示して、ライコネンが交渉している他チームを混乱させるか、もしくは予算を捻出させて戦闘力を低下させる(笑)。
羽端 困らないのは、ライコネンだけか!?(笑)
[STG] でも、一貴と可夢偉なら、遥かに”安い買い物”になるわけで、それを開発費に回せる。
羽端 それはいい! それに、どっちもTDPのドライバーでしょ。ドライバーについて、トヨタはこういうことをやってきていたということで、”スジ”としても、すっごく通る。これはいい話だと思う。
[STG] 夢は大きい方がいいので!