【特別企画】 拝啓トヨタ自動車様 3)確実に実力を向上(1/2)
*このページは、『トヨタF1撤退会見全録』のリンクページです。会見のコメントを解説しています。
前略
豊田社長が発したこの言葉は半分当たっていますが半分は外れています。確かにマシンもチームも強くなっています。ただし、日本のオリンピックのメダルの値段と、かかった経費の比率が世界の中で比肩する国がないほど高いというデータをどこかでみたことがありますが、それと同様、かけている分だけの成績向上はあったとは言えない状況です。
ただし、ここ数年に限って言えば、特に今年は、社長の説明にある通り、大幅なコストダウンを成功させたようですが、デビュー当時から数年の間、どんなお金の使い方をしているか、トヨタの上層部の方々はお気づきではなさそうです。さらにその結果、F1のコストバランスを大きく崩し、そして御社は去っていくのです。F1関係者には、どう映るでしょうか。その例は、表面に現れてパドックの話題になったことだけでも枚挙に暇がありません。
例えばデビューの年、ミナルディという弱小チームから、グスタフ・ブルナーというデザイナーを引き抜きました。息も絶え絶えのチームから引き抜いたことを、当時の御社の広報部のとある方は「F1はなんでもありだから」と高笑いしながらおっしゃいましたが、F1で弱いものいじめが許されていると思ったら大間違いです。仮にトヨタが、マクラーレンかフェラーリなどの強豪チームからデザイナーをひっこ抜いたなら、たとえそれが金に飽かせてであったとしても”トヨタ恐るべし”と思わせることができたでしょう。しかし、F1内部の評判は、”トヨタはどうして能力のない連中に、周囲の迷惑も省みずに高い金を払うんだ”というものでした。
◆最重要項目は「金」ではない
“闘い”には金は必須条件です。殺人のない戦争と言われるF1なら尚更です。しかし、ことF1に限れば順番が違います。金は二番目。ファーストプライオリティが置かれるのは、”勝つという明確な意識があること”だからです。勝ちたいからF1をやっている。そのために金は必要、という順番です。
しかし、その順番を間違えて金を第一に持ってきていた(コストダウンが最重要項目の生産車とは対照的です)トヨタ主導のF1チームがどうなったかといえば、”金が欲しい人ばかりが集まった集団”になったのです。勝ちたいことよりその前に金が欲しい。つまり本当に勝ちたいと思う人がいない。ゼロではないにしても限りなく少なかった。そういうチームでは、どんなに金をかけても勝利は覚束きません。
こんな話もあります。マイク・ガスコインというデザイナーが何年か前にトヨタと契約をしました。契約交渉の場について、ガスコインは、当時ホンダが関係したBARにいた友人デザイナーのジェフ・ウィリスに、「オマエもトヨタに来た方がいい」と言ったそうです。「交渉の最初のテーブルで、試しに希望額にゼロをひとつ余計につけて提示したら、そのままOKが出たから」でした。”交渉”のつもりが肩すかし、もちろんとってもうれしい勘違いでした。「金を出せば強いスタッフが集まる」、というのは誤った考え方だったのです。