F1ドライバー 小林可夢偉 2010年 初春トーク 6/9
◆09年・日本GPは、ほんとに予定外だった!
[STG] 2008年からトヨタのサード・ドライバーになってるけど、外から見ると、チームの一員でもあるし、F1ドライバーであるという言い方もできると思います?
可夢偉 ぼくらにとっては名前だけですね。(シーズン中には)テストがなくなりましたいから。
[STG] サード・ドライバーとレギュラー・ドライバーでは、雲泥の差がある?
可夢偉 そうですね。
[STG] 去年までは、自分はGP2ドライバーであるという認識?
可夢偉 そうです。
[STG] それでもチームと一緒に移動しなくちゃいけなかったけれど、日本GPみたいに走れるチャンスが出てくることもある。そうめったにあることではないけど、そういう時はどんな気持ちでしたか?
可夢偉 いやぁー、どうなんですかねぇ……。
[STG] 日本GPのときに、朝の8時に電話かかってきたっていうのは?
可夢偉 あれは予定外でしたね。そんな急にホントに乗れるとは思ってなくて、(もし乗れるなら)もうちょっと早く(から)わかるだろうと。
[STG] あの日、鈴鹿では、そういうことはないと思っていた?
可夢偉 もちろん! あの日は乗れないと思ってました。
[STG] サード・ドライバーっていうのはホントに名ばかり?
有松マネージャー (シーズン中のテストが禁止になった)過去2年はそうですね。
12月2日、撤退の後も、テストが続けられたトヨタのシミュレーター。この開発も実は大変だったという。
◆シミュレーターというコンピュータの”化けもの”
[STG] でも、ドライバーとして、トヨタにはないと思われていたシミュレーターに乗ったりもしたんでしょ?
有松マネージャー そうはいっても、あれがまともに稼動し始めたのは、ここ半年ぐらい。
可夢偉 それまで、使いものにならなかった。
[STG] そんな状態だったんですか?
可夢偉 1周まともに走れない状態。
[STG] 開発が大変だったんですね!
可夢偉 めちゃめちゃ大変ですよ。アレをまともに使えるまでに、ぼくが、どれだけ、あの中(コクピットの中)にいたことか! 最初に鈴鹿のマップを入れたら最悪でしたよ。デグナーの1コめ(のコーナー)で、いきなりひっくり返って空飛んで行きましたから!
[STG] なるほど! それでわかりました。TMGに取材に行ったときに、最初、シミュレーターに乗せてもらえるという話があったけれど、木下さん(美明TMG副社長)から、”振り落とされるかもしれないので辞めた方がいいです”と言われたんですが、冗談ではなかったんですね。
可夢偉 アレは危ないですよ。ぼく、結構痛い目に遭いましたから。結局、コンピューターの想像でつくった世界なんで、ひっくり返ったときはデータがないですから。想像を超えるような力が返ってくるんですよ。何とかしようとするんですが、あんな力には勝てない。それで、肘を思いっきりぶつけて、タマランな、と(笑)。
シミュレーターは、3人のエンジニアがつきっきりでデータを採取している。
[STG] モニターをずっと見ていないといけないから、かなり疲れるとも聞きました。
可夢偉 (実際の)レースよりも疲れます。映画館の映画を、つねにずーっと見てる感じですね。ずっとやってると、結構ストレスたまります。一日乗ったらヘロヘロですよ。セットアップをしている時間が長くて、待ってる間はクルマの中でずっと待っていないといけないんで。
[STG] そういう時は、例のゲームを(笑)?
可夢偉 最後の方は、雑誌読んだりしてましたね。
[STG] シミュレーターに乗っているのを後ろから見物したときは、すごい臨場感があって面白そうに見えたんですが、あれは”マジ・モード”だからですね。
可夢偉 真剣に走らないとタイムでバレちゃうんで……。ウソ発見器が後ろにいっぱいあるから(笑)。
[STG] シミュレーションはそれなりに役に立ったと思います。デビューのブラジルGPは、シミュレーションの効果がありましたか?
可夢偉 いえ、ブラジルのマップはなかったんです。
[STG] そうですか。となると、当然、画面にバトンが出てくることもなかった(笑)。
可夢偉 ないです(笑)。
有松マネージャー 基本的に、対戦モードはないですから(笑)。