スペインGP 記者会見(金曜)
スペインGP金曜日の記者会見。今回はロス・ブロウン。
Q. ホイールベースを伸ばしたシャシーなど、マシンに新しく手を加えたわけですが、初日を終えて、どんな手応えでしょう?
ロス・ブロウン(以下、ブロウン): ボディワークは外観がかなり変わり、もちろん進歩があった。劇的によくなったというわけではないけれど、いちばん効果があったのはウイングと車体の下部だ。元々こういう形を考えており、序盤はやるべきことがたくさんあったので、現在のマシンを投入するまで手堅くいったというわけだ。これで予定どおりのマシンが完成したと言える。他のチームと同じように、ウイング、ディフューザー、ブレーキディスクなど、重要なパーツにも手を加え、セッティングの幅を広げ、重量配分を変える範囲も大きくするためホイールベースを伸ばした。このサーキットでは重心をリヤよりにしてもあまり効果がないけれど、いずれ役立つレースもあるだろう。
Q. 来年からKERS(※1)が導入されるとか、2013年にエンジン規定が変るといった話があります。KERSには賛成でしょうか?また、それはF1にとって重要なことで、2013年のエンジン規定変更の大きな要素になるとお考えですか?
ブロウン: KERSには間違いなく将来性があると思う。2013年からのエンジンも中心は内燃機関だが、それを取り巻く技術は進歩し、開発に関する考え方も変るだろう。私たちもそれに協力を惜しまないつもりだ。KERSはレギュレーションで認められるので、来年は誰もが使うことができる。FOTA(※2)では、コストを抑えるために、KERSを一定の費用で作り、おなじ価格で他チームに提供するという条件でならば、使用を認めようという話になっている。その条件が満たされれば、来年から登場することになるだろう。実際に使うかどうかは、いろいろな条件を見てみないと判らないが、そうした技術は歓迎だ。ともかく、有益な技術なので、KERSに反対するつもりはまったくない。問題は指摘されているように、余裕のあるチームがKERSについての自由度を大きくして欲しいと考え、そうでないチームは制限することを望むことだ。ともかく、KERSは来年からレギュレーションで認められるのだから、先ほどの条件を満たせば、誰でも使うことができる。
Q. ミハエル(・シューマッハ)の新しいシャシーに対する反応は予想どおりでしたか?
ブロウン: 中国で不振だった原因は、まだ判っていない。前にも言ったとおり、ミハエルは順調に前進している。ミハエルほどのドライバーでも、3年のブランクがあり、数日しかテストできない状態で実戦に復帰するのは難しいことなんだ。それでも開幕からの3戦で着実によくなっていたから、中国は例外と見るべきだろう。マシンが原因なのかドライバーのせいなのか判別できない分野も存在するので、念のためにシャシーを変更してみた。あのシャシーは縁石に乗り上げてダメージを受け、修理したと思っていたのだが、ちゃんと直っていなかった。そこで工場へ送り返し、ミハエルはテストの時とおなじ車体を使っている。マシンの状態には、まず満足しているようだ。そして、元どおりマレーシアまでの進歩を続けている。中国はたまたま悪過ぎただけというわけだ。まだ初日だが、上海のようなことが起きる要素はどこにもないと思っている。
Q. 新しい空力パッケージは風洞実験から予想されたとおりの成果を挙げていますか?また、ミハエルは今日、ニコ・ロズベルグよりかなり速かったわけですが、それは違うプラグラムをこなしていたためなのか、それとも条件はおなじだったのか、聞かせて下さい。
ブロウン: ふたりは別々のプログラムに従って走っていた。ニコはミハエルと違う変更を加えたマシンで走っていたよ。違う仕様を試し、その結果を組み合わせるというのは、ごく普通の手順だ。テストができない状況では特にそうだろう。金曜にはやるべきことがたくさんあり、できるだけ多くのデータを集めなければならない。そして今日の走行が終ってから、それらを合体させる。空力パッケージについては、ほぼ予想どおりの結果が得られたと思う。普通、バルセロナへやってくると、ドライバーは冬季テストの時の方がずっとよかった、と言うものだ。しかし今回、ウチのドライバーはテストの時よりいいと言っている。しかし、すべては相対的な話だから、手放しで喜ぶわけにはいかない。他のチームも前進しており、目標は常に動いているんだ。F1では何もしないとものすごい勢いで後退してしまう。現状を維持するだけでもたいへんなことなんだ。
Q. エンジンカバーを変更し、冷却ダクトをひとつからふたつに増やした理由はなんですか?
ブロウン: あれはエアボックスへの穴で、吸気システムに関するものだ。普通はひとつだが、ロールバーの構造の関係でふたつになった。それによってリヤウイングの性能をよりよくすることができる。リヤウイングを強く効かせるようなサーキットでは、有効なシステムになると思う。それが変更の理由だ。
Q. 来年から18インチホイールの使用が義務づけられた場合、何が問題になると考えていますか?
ブロウン: 技術部門の役員たちとそれについて話し合い、18インチあるいはそれ以上に大きいホイールの可能性を検討している。タイヤの性能が高まるので、タイヤメーカーはその案を強く推しているようだ。変更は歓迎だが、問題はその時期だろう。18インチホィールを来年から導入するとなると、今から準備したのでは遅すぎる。どのチームも時間内にマシンを仕上げるのにたいへんな苦労をさせられることだろう。単にホイールが大きくなるだけではなく、マシンの性格が違ってくるから、サスペンションや他のシステムも考え直さなければならない。来年からということはないだろうが、将来的には可能性があると思う。
Q. 22年前からドライバーの頭上にあったエア・インテークの位置を低くしたのは、エンジンの性能を上げるためですか、それともリヤウイングへの気流を整え
ることが目的なのでしょうか?
ブロウン: リヤウイングへの気流を整えるためで、ディフューザーの性能などとは関係がない。
Q. ミハエルが上海で見せた戦いぶりについて説明がありましたが、レース後に多くの批判的な意見があったことも事実です。それは間違いなのでしょうか?
ブロウン: ラップタイムが遅かったと批判するのであれば、問題ない。ただ、それには理由があったということも考えるべきだろう。実際にタイムが出なかったのだから、批判したくなる気持ちは判る。シーズン中には、ドライバーやマシンがタイムを伸ばせない状態になることがあるものだ。だからといって、あのドライバーは終りだという結論に飛びつくのはどんなものだろう。ミハエルの腕前について結論を出すのは、もうすこし先でいいと思う。
Q. 新しいパーツのテストに関してですが、このバルセロナや観客の多いサーキットでホイールが脱落し、スタンドに飛び込んだ場合、重大な結果を招くことになります。こういう環境で新しいパーツをテストしてよいものでしょうか?
ブロウン: もちろんパーツのテストはどのチームも工場でやっている。私たちも、たいへんな費用と15人のスタッフを使って各パーツを前もって完全に検定しているんだ。事故が起ったときの結果について聞かれているわけだが、テストでもたまたま人がいれば、深刻な事態になるかもしれない。だから、テストが解禁になっても、問題を解決することにはならないだろう。純粋に機械に関する問題なのだ。ジョルジオ(・アスカネリ/トロ・ロッソのテクニカル・ディレクター)はあの出来事(※3)でショックを受けただろうし、原因を徹底的に追求したはずだ。あってはならないことだったから。だからといって、テストを行うことで解決するわけではない。
※1 KERS
ブレーキング時のエネルギーをチャージして、推進力にするシステム。搭載することで、スタートやストレートなどの強い味方になる。2009年はこのシステムを任意でマシンに取り付けることができ、今年もレギュレーション上は搭載が可能となっているが、経費削減を掲げるF1にとってランニング・コストが掛かり過ぎるため、昨年の段階で全チームが2009年限りで廃止することに合意。今年は全チームが KERSを使用していない。
※2 FOTA
F1に参戦する全チームからなる組織。
※3 あの出来事
中国GP金曜フリー走行1回目に、走行中のセバスチャン・ブエミ(トロ・ロッソ)のマシンからフロントタイヤが左右同時に脱輪した。