新シリーズ / ハミーに訊く【F1が楽しくなるタイヤ講座】 1/3
タイヤが自動車レースの成績を左右することは、いまさら繰り返すまでもないが、ひたすら黒くて丸いタイヤは、なかなか正体が見えにくい。そのタイヤが見えると、レースがもっと楽しくなる。
ということで、ブリヂストンからフェラーリに移籍したハミーこと浜島裕英ビークル&タイヤ・インタラクション・ディベロップ・ディレクターに訊く、タイヤから見えるF1の世界を、どうぞ。
ということで、ブリヂストンからフェラーリに移籍したハミーこと浜島裕英ビークル&タイヤ・インタラクション・ディベロップ・ディレクターに訊く、タイヤから見えるF1の世界を、どうぞ。
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STINGER編集長山口正己(以下STG):フェラーリに移籍して初のレースが終わりました。お疲れさまです。
浜島裕英(以下、浜島):お疲れさまでした。
STG:疲れましたか?
浜島:まあ(笑)。慣れない職場なので、緊張もしましたね(笑)。
STG:フェラーリの内情ということになると、訊きにくいし(笑)、喋りにくいでしょうから、タイヤ全体のことについてお伺いします。
浜島:はい(笑)。
STG:レーシング・タイヤは、一般タイヤと同じいわゆるヒステリシスロス(ゴムが繰り返し変形する時に起きるエネルギー損失のこと。その損失の代わりにグリップを得る)によるグリップだけでなく、ガムテープで粘りつくのに似たグリップがある、と思いますが、ピレリは、後者をあまり重要視していなくて、だからタイヤカスが多いのではないか、というイメージがありますが。
浜島:そうですね。どっちかというとヒステリシスロスでグリップを取っているのではないかと思います。ただ、今年は、みなさんラップタイムを見ていてお分かりのように、磨耗をあまりしないので、マーブル(タイヤカス)は少ない、とドライバーは言ってますね。ボク自身は去年を見ていないのであまりわからないですが、ドライバーはそう言っています。
コーナーによってはマーブルがあるけれど、去年の場合は、サーキットが、レース終盤になると走行レコードラインが1本しかなかったけれど、今年はそうではない、ということで、磨耗的にはよくなっていると思います。
STG:ガムテープのように粘りつかないからタイヤカスが多いのでしょうか?
浜島:それは分からないですが、ピレリの人は、”考え方が違う。だからマーブルが出るんだ”と言ってます。
STG:滑っているからタイヤカスが出る。
浜島:ですね。
STG:しかし、だからこそレースが面白くなっている。
浜島:彼らはそう言っていますね。
STG:で、実際に面白くなっていますし(笑)。
浜島:ですね。
STG:去年に比べて、固いタイヤが使えなかったものが、今年は改善された、といわれていますが。
浜島:ポジションを変えましたからね。去年は、ハードとソフトをオーストラリアに用意していますが、今年は、ソフトとミディアムにしています。でも、ソフトといっているタイヤが、去年のタイヤよりソフトなんですね。ミディアムが去年のソフトくらい。ピレリは去年1年やってポジションの修正をしているようですね。
STG:全然グリップしない、と言われないように。
浜島:ですね。
STG:去年の前半は、グリップしない、とあちこちに書かれて、STINGERも書きましたが(笑)、市販タイヤのプロモーション・イメージ的にマズイということで、序盤戦のプレスリリースに、”市販タイヤは大丈夫”みたいなコメントをあえて載せていました(笑)。
浜島:でも、去年1年間消化して、タイヤのトラブルがなかったというのは、実はスゴイことなんですよ。みなさん意外とそこを評価しないけれど。
STG:なるほど。
浜島:参戦が正式に決まったのは2010年のトルコGP(5月)くらいだったじゃないですか。そこで指名されてから、工場に機械を導入して、1年間トラブルが起きなかったのはスゴイことだ思います。それを考えれば、多少ポジションが違ったとしても、それはしょうがないですよ。1年間の経験でちゃんとしたポジションに持ってこれれば、それは素晴らしいと思いますね。
STG:グッドイヤーの時代に参戦して、タイヤの表面を削って使ったり、今度は今度で、タイヤカスは多いわ、グリップしないわで、イメージがよくないと思っていましたが、そんなことはない、と。
浜島:そう思います。
STG:モーター・レーシングの歴史もありますからね。
浜島:ですね。
◆アロンソとマッサのタイヤの使い方
STG:ところで、アロンソとマッサのタイヤの使い方は、どうでしょう。
浜島:どっちがどっち、というのは言えないですね。今回のレースいくと、マッサの方が早く消耗しちゃったように見えるかもしれないけれど、昔の話でいけば、マイケル(シューマッハ)とマッサが(フェラーリで)組んでいたときは、クルマが自分に合えば、マッサはちゃんとタイヤを使えましたね。運転の許容度は、マイケルに比べてちょっと狭いかな。
STG:アロンソは、
タイヤの使い方が上手いですか?
タイヤの使い方が上手いですか?
浜島:上手いですね。相当に上手いでしょう。敵だったとき(ブリヂストン時代に、アロンソの乗るルノーはミシュランを使っていた)、クルマのポテンシャリティが多少低くても、それなりに持ってくる。ということができるのが超一流ドライバーなんでしょうね。
STG:上手いドライバーは、何が違うんでしょうね? 例えば、ハンドルの切り方が上手いとか、ブレーキングが上手いとか、そういうことなんでしょうか?
浜島:ブレーキのかけ方とか、荷重移動のさせ方で、クルマをコントロールできる、というようなことですね。もちろん、フィリッペも、かなりのレベルでできるけれど、頂点の狭いところでそれができるかどうかじゃないでしょうか。
STG:なるほど。
浜島:マイケルなんかも、アンダーのクルマがあまり好きじゃないけれど、それでレースをやらなければならない、となったら、運転の仕方で合わせる。ブレーキングで早めに荷重をかけて曲がれるようにするとか、オーバーステアがひどかったら、ゆっくりブレーキを踏んで、アンダーを出にくくするとか。それができると超一流ということだと思います。
STG:その領域になったら運転が面白いんでしょうね。
浜島:でしょうね。クルマが自由自在でしょうからね。これはやっぱり、星野(一義)選手の横で、富士を走ったことがあるんですね。会社の出張用の、もちろんノーマルのクルマなんですが、100R(高速でゆるく右に曲がり込むコーナー)で、「浜ちゃん、下だけ見ててよ、足だけ」というんです、アクセルペダルを見てろって。見てたら、ステアリングは切らないで、100Rを回っていくんですよ。ポ〜ンと100Rに入って、最初にちょっとだけステアリングできっかけを作ったら、ハンドルは動かさないのに、「これで曲がっていくだろう」、って(笑)。そういうことができるんですね。
STG:そうですかぁ。
浜島:で、感心したのは、ギヤがオートマチックみたいだったこと。エンジンの回転数とギヤ比が、ぴったりで、ショックが全然なかった。そういうところが、超一流というのは違うんじゃないですかね。
STG:超一流の中で、アロンソとシューマッハを比べた時に、タイヤの使い方はどうでしょうか?
浜島:似ていると思いますね。限界を超えない、タイヤメーカーのサゼッョンに対して言った通りに使える、それは勝つためだと思っているので守りますね。そういうところは、(アロンソがルノー時代は)やっぱり、いいコンペティションをしていたな、と思います。
STG:シューマッハとは長いつきあいでしたが、今年から見ることになったアロンソは、レベル的に同じ領域のドライバーでしょうか。
浜島:一緒かどうか分からないけれど、同じところにいますね。今まで見た中では、キミ(・ライコネン)、アロンソ、ミハエルですね。
STG:ライコネンは、なんだかアバウト感じがしますが(笑)。
浜島:そんなことないですよ。
ハミーに訊く【F1が楽しくなるタイヤ講座】 2/3「わからないことが面白い!」に続く。
※21日(水)に公開予定です。
[STINGER]山口正己