笹原右京に訊く、16歳の決意(1/5)◆ザルツブルグの学校
2011年に挑戦していたイギリスでのカートレースでの走りに興味を持ったオーストリアのカートチームのオーナーから”学校も用意するからザルツブルクに来ないか”と声がかかった。
ちょうど1年前、笹原右京は、ザルツブルグに旅立った。英語で勉強を進めるインターナショナル・スクールに入学し、寮生活を送りながらカートレースを続けた右京は、そこでも素晴らしいレースを見せ、ユーロNOVAという実績のあるレーシングチームから2013年のオファーが届いた。
初めてフォーミュラカーのステアリングを握ったのは、10月。名門ユーロNOVAのテストである。
その後、二度のテストを経て、笹原右京は、2013年4月7日、イタリアのバレルンガで4輪デビューを飾った。36台がひしめく中での8位は、16歳のデビュー戦としては悪くない。しかし右京は、その結果に満足していなかった。
スティンガー編集長山口正己(以下STG):ザルツブルグの前は?
笹原右京(右京):普通に日本にいました(笑)。レースをメインに考えていたんですが、英国でのカートの成績を見ていてくれたチームVPDレーシングというオーストリアのカートチームから、学校も面倒見るから、是非、来てほしいと言われました。
STG:どんな学校?
右京:全部で200人くらいの小さい学校で、ドイツ人、オーストリア人がいます。英語の勉強もしたいし、もしも、万が一レーサーになれなかったとしたら、ということも考えて、今後のことについてもしっかり学べる場所なので。
F1ドライバーを目指しているという16歳の少年である。”レーサーになれなかったときのことを考えて”、という周到な人生設計。話を聴いて最初に驚かされたコメントだった。
最初、マネージャーから、”16歳だし、まだまだボキャブラリーがたらなので”と訊いていたが、マネージャーの心配は単なる心配に終わった。有楽町のイトシアの会議室でのインタビューは、制限時間をはみ出した。右京の口から、逸話や考え方が次から次に沸きだしてきた。
STG:インターナショナル・スクールだから、勉強は英語で?
右京:ですね。国語が英語で、スペイン語やイタリア語、フランス語も勉強できます。向こうに行ってから、英語の重要性を痛感しています。日本の学校では学べないものがあると思います。
STG:日本の中学校で英語を勉強したわけだけれど。
右京:日常の会話は、中学校の英語で大丈夫なんですが、授業の英語は、難しい単語を使うので、どちらから言うと、単語を覚えてボキャブラリーを増やすしかない、という気がしています。
STG:テニスの松岡修造さんが、子供電話相談室で、”強いテニスプレーヤーになるにはどうしたらいいですか?”と訊かれて、”思い切り意地悪になりなさい”と答えていたことがあります。テニスは、人がいない方に球を打つので、なんだかズルイ感じがするけれど、それがテニスの王道。モーターレーシングも通じるものがあるかな、と。なので、海外で普段の生活をすることで、そうした基本的な感覚も学べるかも。
右京:はい。
STG:向こう生活は好きですか?
右京:はい、好きですね。いろんな国の子がいて、その子の国のこととか、いろんな話ができる。美味しいものはなにかとか、だれが一番有名人かとか、他愛ないことですけど。
STG:レーシングドライバーになりたい人はいないの?
右京:いないです(笑)。でも、レースのことを知っている子はいて、けっこう、話になりますね。
STG:クルマに対する文化レベルというか、そういうのが日本とは違うと思いますが、レベルの高さみたいなものを感じますか?
右京:感じますね。これは別の国の話になってしまうんですが、イギリスにいたときに、モーターズTVというを24時間ずっと流していて、近所のおばあちゃんから、”今日のレースはどうだったんだい?”と訊かれたり、F3とか知っているんで、それだけでも驚きました。すでにそうして知れ渡っています。オーストリアやドイツでも、モータースポーツは必ず日に一度はテレビで流れていて。
STG:日本は、自動車が基幹産業なのに、自動車メーカーの人も底に気づいていないというか、そういう状況は恥ずかしい、と黄色い猿の代表としては思います(笑)。
右京:(笑)。
STG:相撲と同じくらい知られているのかな。
右京:そうですね。