佐藤琢磨、凱旋帰国!! 会見全録(その3)
(その2から続く)
◆いろいろなカテゴリーに参加することのメリット
琢磨:ストリートコースの攻略法については、ストリートコースといっても、いろいろなタイプがあって、すべてマカオ(と同じこと)ではないし、F3時代のマカオと、ポー(フランス)では、まるで性格が違います。そんな中でマカオを例にとったのは、ロングビーチのレースを見て気づいた方も多いと思いますが、1コーナーでのアクシデントが非常に多い。ロングビーチのコースレイアウトを見ると、ゆるやかなカーブを含めて非常に長いストレートの後に、超のつくぐらいヘビー・ブレーキングがあって、そこから滑りやすくて、判断が難しい90度コーナーがある。そこはマンダリン・コーナーを抜けてリスボア・コーナーに入っていくマカオと、右左が違いますけど、ちょっと似ているんですね。どうしてマカオを思い出したから言うと、インディカーでは、1秒以内のスリップ(ストリーム)に着かれてしまうと、プッシュtoパスというオーバーテイクボタンがあるので、抜かれてしまう可能性が非常に大きい。自分もそれを序盤に、去年のチャンピオンのハンターレイにやったわけですが、その抜かれ方を避けなければ行けないので、リストターと直後に、もちろん、1コーナーをクリアーに抜けるというのはボクの中で絶対条件でしたが、1周戻ってくる間に、1秒以上の差をつけることがボクの中では非常にこだわる部分でした。そこから、1秒前後の感覚でコントロールできれば、追いつかれても抜かれない、という意味で、ロングビーチは抜きやすい、抜かれやすい特性のあるエキサイティングなコースなんですが、レースをリードしている時は不利に働く、それを避ける意味で、マカオの例をちょっと出したんです。
—-去年からフォーミュラ・ニッポン/スーパー・フォーミュラやWEC(世界耐久選手権)に参戦していますが、インディカー以外のマシンに乗った時に、なにか影響があるでしょうか?
琢磨:他のカテゴリーに参戦するというのは、ドライバー同士のスタイルとか、どの程度の経験を積んできたか、ということで大きく違うと思うんですね。特に、自分のように、幼少期にレース経験をしないで、大きなクルマにどんどん乗っていく段階では、いろんなクルマにはネガティブというかマイナスに働く、あるいは、若いドライバーにとっては、環境を安定させることが、クルマへの理解度などのレーススキルへの理解度が深まって、他のクルマに乗ることによる混乱を防ぐ、ということで、ひとつのシリーズに集中することが、最も当たり前の路線なんですが、ボク自信、ヨーロッパでのF1の経験を含めていろんなクルマに乗って、F1では毎年ニューカーになるわけだし、毎戦、エアロアップデイトがあり、ボクらがやっていた時代は、タイヤのコンパウンドやコンストラクションが代わり、だから毎戦フィーリングが変わる。それで、早くアダプトする、というのが必要なひとつの能力だったですね。
インディカーも、非常にバラエティなコースで、ストリート、ストリートとくればいいけれどそうじゃないですね。ロードもあれば、オーバルもある。オーバルも、コースによってまったく感覚が違うんで、そういう意味では、素早く順応することを鍛えるために、可能であれば、他のカテゴリーに出るということは非常に有効だと思います。それは自分の中でブレない軸として、メインカテゴリーが狂わなければ、他のクルマに乗って、そこで新たな発見があると、ボクは信じています。
◆鈴鹿の後のロングビーチで証明できたこと
実際、スーパー・フォーミュラはデリケートなクルマだと思います。セッティングにも現れてくるし、タイヤひとつとても、むしろブリヂストンタイヤは優秀なタイヤではあるんだけども、使い方が非常に繊細。なぜかというと、サーキットそのものも、鈴鹿サーキットだったり、非常に優秀なサーキットが日本にあると思うんですけど、とってもサーフェイス(路面)がきれいで、クルマ本来の、計算どおりにレーシングカーが走るんですね。そこで、重箱の隅をつつくような、本当に細かい、まるでオーバルのようなエンジニアリングをしてロードコースを走るんで、完璧なドライビングスタイルが要求される。型に嵌まったときは、すごく乗りやすいし速いんだけれど、その範囲が非常に狭い、というのが現行シャシーのスーパー・フォーミュラという理解をしています。
したからこそ、インディカーのダイナミックな運転にも通用するような、無駄になることはひとつもないと思っているし、いろんなカテゴリーのクルマに乗ることで、ひとつひとつ前進するような気がしています。実戦していきたいし、こうして実戦したことで、鈴鹿の後にロングビーチに行って勝てたということは、それを証明できたかな、と思います。
—-3戦を終えてランキング2位にいますが、シーズンを終えてどの辺りを目指していますか?
琢磨:自分でもビックリですね。ランキング2位は、誰も想像していなかったと思います(笑)。ただ、自分自身、もちろん、どんなレースだって完走目指しているし、どんなレースだって安定してひとつでも上位に行きたいし。ただ、勝ちたいという意識が人一倍強いのか、それに対するコントロールがヘタクソなのか、うまく走れるレースが少なかったですね。ただ、ここに来て、まぁ、若くない(笑)。いや、選手としては、これからがピークだと思っていますが(笑)、間違いなくそんなに長くはないと思います。ただ、ここまで積んできた経験が凄く活きてきて、無理しない時は無理しない、攻めるときは攻める、そこら辺の使い分けが、考えることなく自然にできるようになってきた気がします。そういう意味でも、いま、インディカー・シリーズは非常にアップダウンが激しいシリーズなので、今後、ポジションがどうなるかわからないですが、ここまで、完走、完走、そして優勝と来て2位にランク入りしていますので、これを大切にしていきたいと思っています。1戦1戦、優勝したいという走りをして、プラス、シリーズ・ランキングもこれまで以上に意識して闘いたいと思っています。
◆メンタル的にももっとよくなると思う
—-モータースポーツだけでなく、他のスポーツでも、世界中で若い20代の選手が活躍が注目されていますが、琢磨さんの活躍が、同年代の方にとっても勇気が与えられたのではないかと思いますが、メンタル、フィジカルな力をどうコントロールしているか教えてください。
琢磨:もちろん、フィジカル的な部分で、20代のドライバーは勢いもあるし、筋肉も柔軟だし、そういう意味では、36歳になって、ひとつだけのファクターを見れば敵わないと思います。だけど、モータースポーツという非常にユニークなスポーツではありますが、機敏な動きが速いわけでもないし、筋力があるからといってタイムがでるわけでもない。メンタル的な集中力と、落ち着きと、いかに自分がイメージしているとおりに手足を動かして、クルマと一体になるか、というレーシングドライバーとして究極の永遠のテーマを求めるわけです。それをいま、少しずつ、自分の理想に近づけるような走りができてきたような気がするんですね。だから自分自身、これまで以上にトレーニングしていかないと、体力が衰えてしまうので、徹底してやりますが、メンタル的にはまだまだ急上昇中、といいたいです。
フィジカル的にも、若いドライバーに負けないくらいトレーニングして、この年になると、トレーニングだけじゃなくて、ケアもしていかなければと思っています。トレーニングするだけで怪我をしてしまうのが怖いので、最近は、専属のフィジオ(トレーナー)を着けながら、ボディケアをしなが、高いレベルを保てるようにしています。そういう意味で、心身ともに、去年よりも、一昨年よりも、もしかすると20代のころよりも強く感じているので、もう少し、乗せてください(笑)。
—-気持ちの支えは?
琢磨:支えですか? 13年間勝ちたいと思ってやってきたこと、レースは、勝つと、あっけないくらいにやってくるもんだし、簡単という言葉はあまり使いたくないですね、誤解されちゃうので。だけど、ホントに簡単なんですよね。すべてのピースが揃うと、謝ってボタンを掛け違えてしまうこともないし、何も意識しなくてもバッドラックはやってこないし、たとえそこに近づいても、あ、これはちょっと危ないな、と思ったら危機回避できるし。
例えば、ロングビーチの最後のリスタートで、周回遅れのクルマが並んでしまって、彼のスタートが凄くよかった。あれで焦ってですね、競り合ってしまうと、自分が事故に巻き込まれる。1コーナーに近づくまでは、”周回遅れなんだから空気読んでよ”とか思ったんですけど(笑)、ある程度までは頑張るんだけど、そこから先は危ないと思ったら、スッと引きましたね。なんとも思わず引いて、それが事故回避につながって、というか。そういうように、乗れている時は余裕が生まれるので、メンタル的にもまだまだこれからよくなると思います。それを維持できるモチベーションというのは、やはり勝ちたい、頂点に立ちたい、もっともっと優勝して、さらにいいドライバーになって、さらにいいチームにして、という次へ次へ、という気持ちがあるので、ここまでの13年間、悔しいレースがたくさんありましたけど、折り返しの13年じゃないですが、ここからやりたいレースができるぞ、という瞬間でもあるので、モチベーションがさらに上がってしまった気がします。
(その4につづく)