ドライバーの速さの決め手
2013年シーズンのF1GPにエントリーしている22人のドライバー。ハンガリーGPまでに、22中16人がポイントを獲得している。
シーズンが半分終わり、F1GPは折返点を通過した。残るは9戦。第10戦ハンガリーGP終了時点のポイントランキングは、セバスチャン・フェッテル(レッドブル)を先頭に、キミ・ライコネン(ロータス)、フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)、ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)、マーク・ウェバー(レッドブル)、ニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)、フェリペ・マッサ(フェラーリ)と続いている。
パストール・マルドナド(ウィリアムズ)が1ポイントで16位。以下のドライバーは得点できていない。つまり、10位以内で完走できていないドライバーが6人存在する。さて、下位チームで戦うドライバーは、上位チームのドライバーより運転がうまくないのだろうか?
◆セッティング能力
運転がうまいかどうか、という質問に答えるのはかなり難しい。というのは、”運転”と一言で言ってもどの範囲を指すか、いろいろあるからだ。
まず、ハンドルの回し方や、アクセル/ブレーキの”操作という意味でのうまさ”は、F1ドライバーは例外なくウマイ。F1ドライバーは、現在世界で22人しかいないが、全員がそれぞれの国や地域でチャンピオンを取ったドライバーだから、下手なはずがない。同じクルマを運転させれば、ほぼ同じタイムで走ることができるはず。ではなぜ差が出るのか。
それ以前に、マシンの違いがある。F1は、厳しくなったとはいえ、車両規則の自由度が他のカテゴリーより緩いため、より高度な(イコール金のかかる)テクノロジーの集大成である。だらポイントが取れない、といってしまっては話は終わってしまう。
その絶対的な差があったとして、上位チームでも差が出るのは何故か。チームが、さまざまな”都合”で肩入れしたいドライバーがいるのだが、それも話をオシマイにしてしまうので、別の観点から行くと、次に必要なのは、”セッティング能力”だ。
プラモデルのキットを渡されて、誰でも同じ完成品ができるかどうか、という表現が分かりやすいだろう。プロのモデラーの手にかかった素晴らしい出来の完成品と素人のそれには明らかな差がある。”作り方のコツやノウハウ”が違うからだ。
マシンセッティングも同じ。与えられたマシンを、いかに自分好みで速いマシンに仕立てることができるか。それも、1戦毎にコースが違い、テストを除けば年に一度しか走らないコースで。テストで走り込んだデータがあったとしても、気温や路面状況が同じことはあり得ない。その日に最善のセットを見つけられるかどうか。それを捜し当てるためには、エンジニアを中心とするクルーとのコミュニケーション能力もモノを言うことになる。
◆グランプリモードへの到達時間
マシンとの対話能力も速く走るための必須条項だ。一口に”マシン”と言っても、さまざまな側面がある。たとえばタイヤの状況、エンジンの状態、ライバルとの差や位置関係、などなど。
特に真っ先にゴールインすることが必要な決勝レースでは、そうした状況をすべて考慮した中で、時々刻々、どのスピードで走ればいいのかを正確に判断して、ゴールまでマシンを運ばなければならない。そうした周辺状況をすべて受け止めて最善を引き出す力。現役トップクラスでは、フェルナンド・アロンソが、キミ・ライコネンと双璧をなして、この能力でベストと言っていいだろう。
昨年からフェラーリ入りしてアロンソと付き合っている元ブリヂストンの浜島裕英エンジニアは、ドライバーとしての能力の最も重要な素養として、”短時間にグランプリモードで走れること”を挙げている。パッと乗って即座に限界走行ができる能力だ。様子を見て10周目には身体が温まって、などというノンキなことではF1では通用しない。
たとえば、ブリヂストン時代のタイヤテストでミハエル・シューマッハは、即座に”グランプリモード”に持ち込めたことが印象的だったそうだ。走行開始直後にグランプリモードに持ち込めれば、テストのプログラムを効率よく消化できる。日本では星野一義現監督が同じレベルだったと浜島さんは回想したが、とにかく、シューマッハが優れていた。だが、”もしかするとフェルナンド(・アロンソ)は、それ以上かもしれない”と教えてくれた。
ルイス・ハミルトンも、グランプリモードに瞬間的に入れる能力は高い。天然自然に速いのはライコネンも同じだ。スピード感覚で言えば、ハミルトンは、現役でベストかもしれない。しかし、マシンとの対話力という表現なら、アロンソに軍配が上るだろう。
ただし、ハンガリーGPでは、その観方が若干揺らいだ。メルセデスが柔軟なマシンに進化したのか、それともハミルトンがなにかを身につけたのか、もしくはその両方か。オンガロリンクは低速だからタイヤに負担が掛からなかったからではないか、という観方は正しくない。低速と言われながら、意外にタイヤにストレスのかかるコーナーがいくつか存在するのがオンガロリンクなのだ。
もちろん、次のベルギーGPの舞台であるスパ-フランコルシャンは、タイヤバーストが連発した(原因の多くは、指定されたのと逆回転で
の装着によると想像されるが)シルバーストン、そして鈴鹿と並んでタイヤに厳しいコースである。もしここでもハミルトンとメルセデスAMGが速かったとしたら、この組み合わせの速さは本物と見ていいだろう。
ひとつ言えることがある。今シーズン、内容はどうあれ、二人のドライバーが両方とも優勝しているのは、メルセデスAMGの1チームだけ、ということである。
さて、下位のドライバーはとなると、0点同士では判断基準を決めにくいが、ポイントゼロの6名に注目して、フリー走行から予選、そして決勝レースを見るのも、ひとつの正しいF1の観方ではある。ベルギーGPは、バルテリ・ボッタス(ウィリアムズ)、エステバン・グティエレス(ザウバー)、ジュール・ビアンキ(マルーシア)、シャール・ピック(ケータハム)、ギド・ヴァン・デル・ガルデ(ケータハム)、マックス・チルトン(マルーシア)の動向に注目!!ということで。