ホットライン 2014 round7 カナダ
永遠に続くと思われていたメルセデス帝国が崩れた。それも、モントリオールの市街地コースという特殊なコースで、むしろ”速いからストレスが大きくなってトラブルを抱える”という新たな展開を見せて。クルマ好きのエディター・羽端恭一さんとSTINGER編集長が、久々の手に汗握る熱戦を振り返り、今後の展開をズバリ診断する。
◆メルセデス、7連勝ならず!
羽端恭一(以下、羽端):いやあ、今回はメルセデスじゃなかった!
[STINGER]編集長山口正己(以下、STG):でしたねぇ!!
羽端:クルマというか、エンジン系にトラブルがあったようですね。
STG:レース中盤に、エネルギー回生システムに異常が出た模様です。
羽端:KERS、ですか?
STG:去年まででいうところのそれですね。でも、今年はもうちょっと複雑ですね。
羽端:あー、熱回生とか・・・・。
STG:ですね。今回のは、どうやら、その熱の方じゃなくて、いままであったKERSに近いほうだったといわれています。KERSを働かせるためにエネルギーを貯めるMGU-K、つまり、Motor Generetor Unit – Kineticといったらいいのかな。
羽端:ややこしい(笑)。要するにブレーキの回生に関係したメカ?
STG:ですね。排気熱を利用する方じゃなくて。
羽端:それがまた、なぜ今回出たんだろう?
STG:カナダGPの会場は、極端な話、長いストレートとシケインでつながれたコースなので、ブレーキングで激しいストレスが発生する。効率がよければいいだけ、その分、スピードが高くなって入力が増してブレーキへのストレスが高くなる、という考え方ができるわけです。
羽端:なるほど。
STG:その上。
羽端:え、さらに?
STG:二人のドライバーが確執が出始める状況じゃないですか。
羽端:ははあ、二人とも、我慢して走れるような悠長な状況ではない!!
STG:あれだけ速ければ、少しペースを落としても行けるはず。でも、そんなことしてたら、相手に行かれちゃう(笑)。
羽端:相手ってのは、ニコにとってはルイスであり、ルイスにとってはニコってことで(笑)。
STG:ですね。ので、熱の問題も、ブレーキの回生エネルギーで、もともストレスがかかるブレーキがさらに酷使されることになるわけで。
羽端:でも、前戦あたりから、レッドブルが速くなっていましたからね。
STG:確かにそうだけれど、今回は特別かも。
羽端:というのは?
STG:カナダGPのコースの特殊性ですかね。
羽端:ストレートが長くて、シケインのブレーキが厳しい。
STG:ですね。それと、路面が荒れて不均一。路面が安定しないと、タイヤのグリップが安定しないので、順繰りにいくとブレーキが安定しない。回生ブレーキは、去年よりはるかに効率よく使えることになっているで、ストレスが集中する。それに高いシケインの乗り越しもあって、クルマはいつもと違う状況にあることになるので。
羽端:なるほどね。
STG:しかし、確かに、レッドブルが立ち直りつつあるようですね。
羽端:そして、そんなレッドブルのうち、リカルドくんがついに勝利してしまった!
STG:まさに、してしまった(笑)。
羽端:いやあ、見事! トラブルで遅くなっていたとはいえ、メルセデス=ニコをちゃんとコース上で抜いての勝利ですからね。
STG:それもレースのごくごく終盤(70周レースの68周目)の出来事でしたから。最後の10周は本当に見応えがあった。
羽端:そして、セブも速かった。今回は、ワルクチは言わない(笑)。要するに、レッドブルがメルセデスの対抗馬として逞しく浮上してきたと。そういう勢力図ですよね。
STG:ですね。
羽端:メルセデスのトラブルがなければ……という見方はあるでしょうが、トラブルなしも性能のうちなので。
STG:もうひとつ、終盤、トップ5が5秒以内にひしめく混戦の中にいたウィリアムズの復調も、今回のエポックでした。
羽端:おー、そういえば。
STG:フェリッペ・マッサが、今シーズン初めてメルセデスの前を走る男になった。メルセデスが不調でペースを落としてピットインした隙にトップ!! ちょっとゾクゾクしましたね。
羽端:しかし、残念ながら、最後は絡んでしまって。
STG:2番手から、リカル
ド、そしてフェッテルと、ズルズル抜かれていたフォース・インディアのセルジオ・ペレスが、迫ってきたマッサ+ウィリアムズに進路を寄せて、マッサが接触、2台ともリタイアしちゃった。
ド、そしてフェッテルと、ズルズル抜かれていたフォース・インディアのセルジオ・ペレスが、迫ってきたマッサ+ウィリアムズに進路を寄せて、マッサが接触、2台ともリタイアしちゃった。
羽端:ペレスは、1ストップだったので、タイヤが厳しかった。かなり激しいクラッシュでしたね。
STG:特にマッサは、バリアに真っ直ぐ突っ込んだので、一瞬、ヒヤッとしましたね。改めてF1マシンの安全性の高さが証明されて何よりでしたけど。
◆やっぱりツーストップの方が速いのか?
羽端:今回、ちょっとおもしろいなと思ったのは、タイヤ戦略です。ピレリは事前に、このカナダではワンストップでも行けるというコメントを出していた。でも、結局……。
STG:トップ3は2ストップでしたね。終盤、2番手を走っていたペレス+フォース・インディア と5位に食い込んだフルケンベルグ+フォース・インディアが1ストップで頑張っていたけれど、最後はさすがにペースを護れなかった。
羽端:いや、おもしろいと言ったのは、すっごく速いチームというのは、たとえピットストップのロスタイムがあっても、タイヤをフレッシュにして走る方が速いんだという戦略を採るのか、と。
STG:これはなんともいえないですね。ピレリじたいが、いわば間違ったくらいなので。いや、間違ってはいないか、1ストップで行けるとはいったけれど、勝てるとは言っていない(笑)。
羽端:確かに(笑)。
STG:最後は、シミュレーションではなくて、レースの経験や、ある種の感、もちろん、臨機応変の対処が、勝利を引き込む、ということかと。
羽端:おおー。
STG::ちなみに、フォース・インディアが1ストップを選べたのは、上に行くためには勝負しかない、という立場にいるから。メルセデスのように、勝って当然の場合、そういう冒険はできない。
羽端:それはありますよね。
STG:だから、眠いのを我慢して待っていると、今回のような面白いレースにお目にかかれる、ということで(笑)。
【西湘-西八王子】
Photos by
INFINITI Red Bull RACING / Getty Images (レッドブル集合写真、シャンパン・ファイト、リカルドのフィニッシュ)
Renault Sport SAS(パワーユニット)
Williams F1 Team / LAT Photographic(マッサ)
Sahara Force India(フルケンベルグのピットストップ)