ホットライン 特別篇–「可夢偉とホンダ」2/2
マクラーレンは、最強メルセデスからホンダにパワーユニットを変更する。
◆ホンダの「本気度」を示すために!
羽端:ちょっと視点を変えます。私自身もこれは夢みたいな話だと思ってるんですけどね。でも、ホンダは「ドリーム」が好きだから(笑)。それは、ホンダは積極的に「ホンダ枠」、つまり「アジア枠」を設けてしまったらどうだろうかという説なんです。……あ、3台エントリーがOKになるなら、それもたっぷり活用してね。
STG:いいですね。でも、いま必要なのは、”ホンダの本気度”を感じる動きです。ホンダはホンダらしくなくちゃ、と思います。
羽端:2010年代の参戦は、ホンダにとって何なのか。
STG:ちなみに、トヨタがF1に登場したとき、当時モーター・レーシングの最高責任者の副社長に、引退することになっていたジャン・アレジを推挙したんです。一人はミカ・サロに決まっていたけれど、もう一人が未定だったので。アレジは、開発能力も、F1村の中での人徳も抜群で、新参トヨタの水先案内人としてドンピシャと思ったので。
羽端:おー、それでトヨタは?
STG:いろいろ調べたらしいですけど、”アレジは借金があるらしいですね”というアリャマな返事でした。
羽端:あ、それでアラン・マクニッシュに。
STG:仲間のジョークがあるんです。TMGはなんの略か、という。
羽端:トヨタ・モータースポーツ有限会社、でしょ?
STG:正しくは。でも、マクニッシュになったので、”トリアエズ・マクニッシュで・ゴメンナサイ”の略だって(笑)。
羽端:ワハハ(笑)。
STG:多分、当時のTMGの中には、アレジの様なF1村に通じた存在は、もしかすると邪魔で、あることないこと吹き込んだ人がいたんじゃないかと勝手に想像してますけど。でも、想像されたトヨタの予算規模なら、引退したハッキネンを呼び戻してアレジと組ませるくらいのレベルだったはず。しかし、それだと、日本からのお金に目が眩んだ方々には、都合が悪かったのかも、ですね。
羽端:ひとつ、気づいたことがあって……。ホンダもトヨタも──あ、私が知らないだけかもしれませんけど。どちらも「ハミー」にあたるようなパーソンを、社内に作ろうとしませんよね。
STG:元BS(ブリヂストン・タイヤ)、いまフェラーリのタイヤ・エンジニアの浜島裕英さんですね。
羽端:日本のブリヂストン・タイヤは、F1界で成功した日本企業のひとつだと思います。「成功」というのがどういうことかは、よくわからない部分もありますが、少なくともBSはそこでリスペクトされていたし、事実としてBSが「F1の一部」だった時期は、たしかにあったと思う。
STG:同感です。
羽端:これはやっぱり、「ハミー」という愛称で呼ばれるまでに、あの世界に食いこんだ浜島さん。彼が、あそこに「いた」からでは?
STG:もちろん、浜島さんひとりの功績ではないし、それをやらせた会社の度量というか、懐の深さだと思います。そして、会社全体がモーター・レーシングをよく理解されていた。
羽端:ええ。社員浜島が、その世界で「ハミー」であることを許したわけですよね。そういう企業としてのBSがF1から撤退したのは、それこそ”社内事情”で、浜島さんがそれを望んでいたわけではなかった。そしてその後、「請われる」というカタチで、ハミーはフェラーリ・チームに加わりますね。
STG:同じようにして、F1界に残ったBSマンは、他にもいますからね。
羽端:だからBSはそういう「関わり方」をしてたんだと思います。……で、何でトヨタもホンダも、この”BSの成功”をフォローしようとしないのか?
STG:それ以前にマネージメントの問題かと。
羽端:というと?
STG:例えば、アブダビのテストがありますね、11月末に。
羽端:ええ。
STG:マクラーレン・ホンダが走らないかな、と。
羽端:それは、2014年時点では、ホンダはまだ”あの世界”に「未加入」だからでは?
STG:規則がどうあれ、それをねじ曲げてでも走る貪欲さというか。
第二期の最強ターボ・エンジン。すでにこれがあったから1988年のマクラーレンはホンダとジョイントした。
しかし、時代は変わっている。
羽端:おお!
STG:可夢偉を推している最大の理由はそこなんです。多分、第二期までのホンダだったら、可夢偉に、”経験をご教示ください”、と頭を下げたんじゃないかな、と。だって、デビューが2015年年と発表した2013年に、2014年からの規則変更に対して参加が遅れて問題ないか、と質問したら、”1年の猶予がある”と言ってたでしょ。その猶予の間になにしてたの?と。その後、どうなったか知りませんが、今年の10月頭の日本GPの時の会見で、新井康久代表は、”現在、動態テストのための車体を作っている”とおっしゃいました。思わず絶句ですよ。えっ、今ごろですかぁ! と。
羽端:そうでした、その記事には驚きました。
STG:車体制御もパワートレーンも、電気を使っているから、そのパルスが干渉し合ったり、その辺りがちょっと難しいんじゃないかと思
います、と質問したら、「ちょっとじゃないです。大変難しい」と言っているのに、”今作ってます”、なわけですから。
います、と質問したら、「ちょっとじゃないです。大変難しい」と言っているのに、”今作ってます”、なわけですから。
羽端:マクラーレンから、旧型とか旧々型を二台くらい回してもらえばいいのにね。あ、旧型では「電気」が絡んでないから、それは意味ないのかな。それ以前に、2014年時点では、まだ二社の間には「パートナー」が成立していないとか、そういう契約があったりして。
STG:そこも含めて、餅は餅屋でしょ。ホンダの規模から言ったらごくごく小企業のマクラーレンですけど、モーター・レーシングを闘うノウハウは、どちらがあるか、いうまでもないですよね。
羽端:「近年のF1」については、ホンダは体感的には知っていない、経験していないわけで。
STG:1964年からの第一期も1983年からの第二期も、最初は知らなかった。でも、先輩、例えば第一期を経験している中村良夫さんなどから、学ぶ姿勢はあった。その辺りは、新井さんだけではなくて、本社のモータースポーツ部を含むマネージメントが考えるべきことと思いますけど。
◆ホンダが「いいパワープラント」を作るために
羽端:ところで、「アジア枠」に話を戻しますが。私はこれ、日本人ドライバーはもちろんですが、チャイナ、コリア、タイランド、香港、シンガポールとか、そこまで範囲を拡げてイメージしてるんですよ。豪州もサッカーではアジア枠だけど、ここは既にモータースポーツではヨーロッパとつながってるから、ここは別にして。
STG:ええ。
羽端:それで「アジア枠」として、公開オーディションでも行なえば、日本以外からの参加者も納得するだろうし、そのイベント自体で盛り上げることもできる。ホンダはこういう意図で、いまF1に参戦してる。そういうのがわかりやすくなれば、株主さんだって、そうだったのかと、長い目で見てくれることになるかもしれないし。
STG:おっしゃる通りですけど、それはもう少し先の話で、今はとにかく、ホンダがいいパワープラントを作るために、可夢偉です(笑)。
羽端:私としては、そういう”フィロソフィー(哲学)”みたいなことでのホンダへの呼びかけだったんですけど。ただ、いまはそれ以上に、可夢偉にもっといいポジションを!……ということがあって。
STG:いや、可夢偉にポジションを、ではなくて、ホンダの本気のために可夢偉を、です。まずはF1のクォリティを知って、挑んでほしいです。
羽端:来年も”F1シーン”にいる小林可夢偉を見たい!
STG:それは同感ですけど、まずは、いいパワープラントを供給するために、なにが必要かをホンダが見極めることだと思います。マクラーレンも、ほしいはずでしょ? それが違うなら、マクラーレンがホンダと組むのは金目当て、ってことになりかねないですから。そうではないことを証明するためにも、まずはいいパワープラントを!! ですね。
羽端:それはもちろん、大前提ですね。
STG:時代も違うし、ターボ時代のマクラーレンがホンダと組んだ経緯は、羨望のチャンピオン・エンジンをすでにホンダが持っていたからです。今は、”新参”としてF1に出て行くことと、ターボ時代みたいに、技術力で差をつけられるレギュレーションじゃない、ということを考えてほしいですね。しかし。
羽端:しかし?
STG:マネージメントを含め、本気で勝とうとしているかどうか。下手すると、可夢偉がジョイントしたとして、なんじゃこりゃぁ、とガッカリする内容でしかないかもしれない。
羽端:ウーン……。リアクションしにくいなぁ(笑)。
STG:一番いいたいのは、そこなのです。
【西湘-西八王子】