新井康久ホンダF1チーム代表に訊くその4—-「開幕戦に、ちゃんといいグリッドに着きたい」

・・・・アロンソは、勝つ気でここにいる、と言ってます。だけど時間がかかるので長期の視野で、と付け加えていますが、この”長期”は新井さんの中では、どれくらいを想定していますか? 最初から勝つのは基本的に無理だと思いますが。ある時間をかけることによって、実力は上昇していくと思いますが。
新井:アロンソは、2015年シーズンで勝ちたいと思っているわけで、我々もそれに応えたいと思っています。アロンソがいう長期というのはどれくらいか聞いたことはないですが、いまフェルナンドの気持ちを想像すると、アブダビの(テストの)状況みて、”う〜ん、謎だな”と、謎が深まったと(笑)ということじゃないんですかね。だから長期という言葉を使ったんだと思います。あそこでシャキッと走っていたら、違う言葉を使ったかもしれない。
・・・・逆にアロンソは、非常に頭のいい人なので、そういうことも含めていろいろわかっている人ではないかと思います。
新井:謎が深まって、めったなこととは言ってはいけないんだろうな、ということだと思いますけどね(笑)。
・・・・新井さんとしては、日本GPの時も”オンスケジュール”と仰っていましたが。
新井:オンスケジュールだといまも思っていますね。
・・・・それでいくと、いつごろから”見ててね”といえるのでしょうか。
新井:もう、開幕戦に、ちゃんといいグリッドに着きたい、というのが目標ですし、そこを変える気もないです。これは随分何度も話をしていますが、例えば、2014年でいうとメルセデスがダントツに完成度が高いし、パワーユニットの出力的にも、それからクルマの完成度も圧倒的に高いわけですよね。他のチーム、パワーユニットのサプライヤーもあるし、コンストラクターも、全部がメルセデスをターゲットに2015年を考えている。もちろん、どのくらいのギャップがあるか全員わかっていて、そのギャップを埋めるために一生懸命やっているところじないですか。埋める目標を置かなかったら、2015年に参戦する意味がないと思うんです(笑)。
・・・・はい。
新井:いや、到達するかどうかは別ですが、目標をおいてそこにステップがちゃんと行くようにいま、一生懸命やっているわけで、それはホンダだけじなくて、マクラーレン・ホンダだけではなくて、フェラーリもそうですし、きっとレッドブル、ルノーもそうですし、ギャップを埋めないまま2015年にいくとは絶対に思えないですから。そんなみっともないことはしないと思うし。あれだけ見せつけられているわけですから(笑)。
・・・・黙っているわけにはいかない。
新井:黙っているわけにはいかないし、レッドブルは、他のパワーユニットだったら、勝てたはずだとか、どこかの記事でも見ましたが(笑)。相当、レッドブルのシャシーは優れていると思います。具体的に計ったことはないですが(笑)。
・・・・計ったことがない、という仰り方でしたが、トヨタがF1に出るときに、”山の高さと険しさはわかっていた。頂上を目指して、到達した!!と思ったら、すでに他チームの旗が立っていた”というようなことを代表者の方から伺ったことがあります。登ればいいのではなくて、一番になるためには、目標設定が難しいと思うのですが。経験がない中で、どうやって決めるのですか?
新井:でも、出力で行けば、想像ができるじゃないですか。例えばラップタイムを見たりとか、いろいろなデータを見ることで。いろいろな方々のいろいろな情報があるじゃないですか。それによって、だいたいこんなもんだ、と。それに対して、どこに(目標設定を)置けば、勝てるようになるのか、もしくは同等になるのか、というのを決めて目標設定をするわけなので、適当にやっているわけではないです。
・・・・もちろん、そうですね。
新井:相手のことが計れないので、特定もできない。ただ、ちょっと遠回しかもしれないですが、我々もエンジニアなので、いろんなデータから想像することは可能だと思います。
・・・・もう一つ、目標設定が難しいのは、例えば、エンジンパワーの正解な数値が100馬力としたとした場合、105馬力を狙うと壊れるリスクが出るし、95では足りない。では100と思ったら、相手は101かもしれない。そのような意味で、目標設定が難しいと思うわけです。
新井:そこは、自分たちがどう考えるか、ですよね。信頼性に対して余裕を持った方がいいのかとか、その辺りはチームとして議論の対象になりますし。
・・・・その辺りについて、マクラーレンから、提案があったり?
新井:それはないですね。我々は、こうする、ということに対して話はしますけど。
・・・・ホンダの設定に対して、”もっと”とか、反応はないのですか?
新井:いまのところ、目標に対して議論をしているレベルではないですね。
・・・・実際に走ることろまでは行っていない、ですから。
新井:謎のホンダ、ということでしょうか(笑)。ミステリアスな(笑)。もうちょっとお待ちください、2月1日からのヘレスのテストまで。
・・・・去
年は1月末からでしたが、そこで初めて今のパワーユニットの音を聴いて、正直ガッカリしましたが、今は、いい音と思えるようになりました(笑)。
年は1月末からでしたが、そこで初めて今のパワーユニットの音を聴いて、正直ガッカリしましたが、今は、いい音と思えるようになりました(笑)。
新井:慣れたんじゃないですか?
・・・・慣れたのもありますが、無い物ねだりをして、昔はいい音だった、ということに意味がない、と思ったのです。
新井:まぁ、ちょっと古いイメージはありますね。
・・・・むしろ、騒音と取る人もいるかもしれないですし。いや、昔のV10や12の音は、それはそれで素晴らしいと思いますが、それをいま、世間に出したときに、”えっ”と言われる風潮もなんとなくあるじゃないですか。だからといってあえて隠す必要はないけれど、いまの音が、どれだけ出ない分をパワーに回しているのか、という見方をしたいと思っています。
新井:事実はまったくその通りですね。エネルギーを回収すればするほど、音は静かになりますから。無駄な音が出ない静かなエンジンこそ速い、ということですね、多分(笑)。
・・・・もともと、エコ・エンジンと、F1のパワーユニットは、向かっている方向が一緒だと思います。
新井:効率ということで言えばそうですね。ハイエフィシェンシーにする、ということは、最大の効率を求めて、で、速く走る、ということですから。
・・・・それが、一般の方々はよく理解できていないと思うのです。だから、一般のマスメディアの方々に、マクラーレンのMTCとか、さくらを見せていただければ、F1をやることの凄さや意義を感じてもらえると思うわけです。
ところで、来年、うまく行った場合、カスタマーエンジンは増えるのですか?
新井:いまのところ、謎が謎を呼んで(笑)、なんのオファーもないですが、ただ、複数チームに供給していくというのは、パワーユニット・サプライヤーとして、縛りがあるわけではありませんが、それを前提としてレースに出て行くわけです、今はマクラーレンとガチでパートナーとなって、ワークスに専念しています。ただ、オファーがくればそれを拒むことはないですし、きちんとF1の世界に貢献したいと思います。
・・・・是非。
新井:そのためには、まずはいい成績を出さないと、ですね。オファーが来ることを祈っていますけれど(笑)。
・・・・できれば、我々日本人としてのマクロ的な意見になりますが、サテライト・チームには日本人が乗っていてほしいな、と(笑)。
新井:(笑)。夢としては、本田技研としても、日本人ドライバーがF1に乗ってくれるのは、日本の活動の中でも象徴的なことだと思います。でも、実力の世界なんで、一生懸命、我々も育成のプラントとかやってベースを作っていこうとしています。
・・・・ちょっと独り言ですが(笑)、現状の育成システムでF1に通用するドライバーは生まれないと思います。素行に問題はありますが、日本人の中では小林可夢偉が圧倒的にいいと思います。もちろん、トヨタとの関係もあるし、先週の岡山でのスーパーフォーミュラのテストは、トヨタが”渡さないよ”という意思表示をしたんじゃないか、という穿った見方もありますが(笑)。
新井:そういうことですか?
・・・・いや、ジョークでそういう声もある、というだけの話ですが(笑)、ともあれ、可夢偉はヤンチャなまま17歳からヨーロッパに住んでレースをやっていて、いわゆる世間常識をマネージメントする環境がないですが、マクラーレンのレース・ディレクターのエリック・ブーリエとはGP2時代から懇意だったり、F1村の中に顔があるのが大きいと思います。若干乱暴なレース運びもありますが、レーサーとしてはいいレベルにいると思いますので。
新井:はぁ。
・・・・1987年に中嶋悟さんを推挙してロータスに送り込んだ時とは全然違う段階の話だと思います。中嶋さんの場合は、国内を見た、いわばドメスティックな考え方で、それはそれであの時は大変意義深いことだったと思いますが、今は時代が変わって、国内だけの視点ではなく、小林可夢偉は、闘うという意味で、いい方向に行くドライバーだと思います。
新井:22人の中の一人ですからね。たったの22人ですから、本当に凄いですよね、いろんな意味で。それぞれのドライバーが特徴ありますが、そのシートに座れるということからして凄いと思います。中でもマクラーレンの二人は素晴らしいし、ケビン(マグヌッセン)も素晴らしいと思います。
・・・・(そんなマグヌッセン)でさえ、2015年はサードドライバー。
新井:いかに席が少ないか、ということだと思います。F1ドライバーというのは、それだけリスペクトされる、ということだと思います。
・・・・ありがとうございました。活躍を楽しみにしています。
新井:こちらこそ、ありがとうございます。
(完)
[STINGER]山口正己
Photos by
McLaren(アロンソ)
Honda Motor Co., Ltd. (MP4-29H/1X1、ホンダのパワーユニット)
Caterham F1 Team / LAT Photographic(小林可夢偉)
STINGER (新井康久ホンダF1チーム代表)




