マクラーレン・ホンダの行く先・その3:チャレンジの壁の高さ
マクラーレンに搭載されているホンダのパワーユニット。この写真は、昨年10月に公表されたもので、細部は変更されているはずだが、基本骨格はこのままの形で参戦を開始していると思われる。画面右端のタービン周辺の熱処理が当面の課題か。
その2からつづく
◆高い目標設定
マクラーレン・ホンダは、シーズン開幕に向けて行なわれた合同テストでなかなか走行距離を伸ばせず、開幕戦でもなんとか完走はしたものの、競争力は満足できるレベルからはほど遠かった。
ホンダが抱える問題は、熱対策であることが、テストやメルボルンでの流れから伺える。ホンダが投入したシステムは特殊である。
現在最強を誇るメルセデスのパワーユニットのような、ある意味オーソドックスな形ではなく、ホンダが採用したのは、パワーユニットのMGUの配置が、発電機とタービンが直結した形式である。タービンは1000℃に達する高熱を発生する。まずは冷却の問題が解決しなければならず、さらには、90度V6エンジンの振動が想定外だったことも考えられる。
ただし、ホンダのチャレンジが、きわめて高度なレベルにあることは紛れもない事実だ。1月下旬、無責任なことを口にしない研究所のスタッフから、「パフォーマンスは悪くない、問題は耐久信頼性」という情報が届いていた。
◆攻めた結果の苦労
性能ターゲットを決め、信頼性と耐久性を後追いでリカバー
する。この方法は、ハイレベルの達成目標を狙う場合には、チャレンジングだ。安定を求めると、このやり方は取りたくない。手堅くまとめて、ご機嫌伺いをしたいところである。とはいえ、ホンダは”それではF1をやる価値なし”と言っている。当然、そのレベル設定が高ければ高いほど、実力を発揮するまでには比例して時間がかかるが、それは覚悟の上である。陣営にその覚悟が、若干不足していたきらいはあるが、それはそれだ。
マクラーレンMP4/30を観察すると、ホンダのパワーユニットが納まるエンジンカウルが、他チームに比べて小さいことに気づく。これは、空力を重要視する側面からはいい方向だが、熱処理を担当するパワーユニット側からは、極めて厳しい条件を突きつけられていることになる。スペースがあれば冷却に苦労はしないからだ。
今年、フェルナンド・アロンソに交代してセバスチャン・フェッテルが加盟したフェラーリが調子をあげ、開幕戦ではタイヤ交換のタイミングでウィリアムズのフィリッペ・マッサをパスして表彰台をえた。去年とは見紛うスピードをフェラーリは着けたのだが、その最大の理由が、実は去年型が、狭いエンジンルームに苦労したからだといわれている。ホンダはあえてそこにチャレンジしているのだ。
ホンダF1レーシングの新井康久代表は、何度も、「妥協しては高いところを狙えない」と言っている。そつなくまとめてご機嫌伺いではない、チャレンジングなホンダに、だから期待したいのである。
結果として、マクラーレン・ホンダが力を出せるまでに、しばらく時間がかかることになるのだが、それはF1GPのレベルの高さの証明でもあり、ホンダのチャレンジング・スピリットの証といってもいい。
“成果”を待つ時間は、短くなさそうだが、だからこそ、声援を送り続けたいのである。
その4につづく