やっと来たマクラーレン・ホンダ / ホットライン 2015 round10
ジュール・ビアンキを失ったF1GPは、その没後最初のハンガリーで、まさしく追悼に相応しい見応えあるバトルを展開した。勝ったのは、ビアンキが次代を担うと目されていたフェラーリ。そして、マクラーレン・ホンダもやっとのことで、闘いの仲間に入れる兆しをみせた。
クルマ好きのエディター・羽端恭一さんとSTINGER編集長が、興奮を抑えて振り返り、今後の展開をズバリ診断する。
◆マクラーレン・ホンダの二人がポイントゲット!
羽端恭一(以下、羽端):うう、すごいレースだったけど、いろいろありすぎて、ちょっと疲れました(笑)。
STINGER(以下、STG):確かに、スタートから最後まで、盛りだくさんでしたね!
羽端:土曜日の件にしても、アロンソのクルマで、どこかのコネクターの接触が悪くて、予選のタイムアタックができなかったというのがありました。それについて、これはホンダのせいだとか、いやこれこそ車体側であって、つまりマクラーレンの担当だとか。
STG:いや、それは外野が勝手に騒いでいることじゃないですか?
羽端:車体とパワーユニットが一体で「レーシング・マシン」なんだし、それを総合的にマネージメントするのが「レーシング・チーム」で──。
STG:その通りですね。で、どのチームも、相当酷い状況でない限りそうしていると思います。
羽端:あ、英国でもそうなんですかねえ? やっぱりファンやメディアはそれとなくマクラーレンとホンダを分けていて、「今週土曜日のホンダは、またわれわれを悲しませてくれた」とか、そんな論調になるんでしょうか?
STG:英国はもうちょっとモーター・レーシングをわかっているというか。もちろん中には面白がってそういう情報を流しているところもありますが。それと、以前から日本が陥りやすいのは、英語の情報がメインになっている、ということですね。
羽端:ウム・・・・。
STG:それはイギリス人の考えであって、正しい判断とは限らない、と。
羽端:もちろん現実として、ブーリエ氏と新井氏はそれぞれ別のパーソンとして談話がメディアに載るわけですが。でも、そのどちらも、相手というか片方についての論評は、ずっとして来なかった。これはドライバーも同じですけどね。チームとドライバーを分けて、「彼らは・・・・」といった類のコメントは絶対にしないし。
STG:そりゃそうでしょう。外でダンナが奥さんの悪口を言ったり、奥様がダンナをこき下ろす声を効くのは気分がよくない(笑)。
羽端:レッドブルは、いっとき、ルノーのパワーユニットはウンヌンというコメントを、盛んにメディアに流してた気がしますが(笑)。
STG:それは、まぁ、よく取れば、ですが、メディアを使って、ルノーに状況を伝えたかったとか。特に、現場をわからない上層部に。ある種これは正しいメディアの使い方かも、ですね。
◆コメント下手な(?)ホンダ
羽端:あ、それでね。今回、マクラーレン・ホンダはアロンソが5位で、バトンも入賞して、半分くらい目出度い(笑)状況だったわけです。それで、これについてブーリエ氏は「今日獲得した選手権ポイント『12点』は、この後のサマーブレークの休暇に向かうにあたって士気を鼓舞する」であろう、という意味のことを言っています。
STG:フムフム。
羽端:巧いな!と思ったのは「12点」という言い方。もちろん、一人で12ポイント取ることもあるでしょうが、このチームのこれまでの流れからして、そうだ、今回は二人がともに入賞したんだ!・・・・ということが、これを読んだファンに、それとなく伝わるようにしてる。
STG:確かに、ここでもマスコミをうまく利用しているわけですね。
羽端:一方の新井氏は、「フェルナンドとジェンソンの見事なドライビングのおかげで、2台ともポイント圏内でフィニッシュさせることができました」・・・・って、たしかにその通りなんですが、この言い方、全然「キャッチー」じゃないですよね(笑)。
STG:もともと新井さんは、その辺りがもう一つな(笑)。今回のチャレンジも、”高い目標を狙っているので、到達するのに時間がかかる”ということをもっと前面に押し出して欲しいところです。開幕戦でフロントローだとか、もうすぐ表彰台とか、結果を言うと素人に見えてしまう、という心配の声を聞きますね。
羽端:ブーリエ氏は、「目指す場所にたどり着くには時間がかかるだろう。それは承知している。だがいつか必ずたどり着いてみせる。それを約束しよう」・・・・と、現状を見据えつつ、未来を述べてます。つまり、メディアを通してファンにも語りかけている。
STG:あ、私がどこかに書いたことそのままだ(笑)。というか、この表現、当たり前のことですからね。
羽端:対メディアで、自分の発した言葉がどういう風に「用いられる」のか、それを十分に知り尽くした上でのフレーズでありコメントだな、と。つくづく、西欧人はプレゼンが巧いよなぁ・・・・と感心しました。
STG:日本も見習ってほしいです。
◆「さくら」に入ったTVカメラ!
羽端:ところで、ホンダのさくら研究所に取材カメラが初めて入ったというTV番組は?
STG:観ました。
羽端:私は見られなかったんですが、この番組で何か新しい発見とか、そういうのがありました?
STG:よくできた番組で、サクラの奥の院にカメラが入ってナカナカでした。でも・・・・。
羽端:でも?
STG:ちょっとマニアックになりすぎの気がしました。レースファンは 面白がるかもしれないけれど、より広い視聴者にどう届くかな、と。
羽端:ははあ・・・・。一般性というか「広い視聴者」をどう解釈するかということですね。何をどういう風に描けば、最も効果的に「おもしろさ」が伝わるのか。まあメディアの永遠のテーマというか、悩みでもありますが、その判断と設定がちょっとマニアに寄りすぎていた、と?
STG:そうです。
羽端:プロデューサーは、まずは視聴者を「信じた」のかもしれませんね。このくらいだったら、いまは大丈夫だろうと。
STG:逆に言うと、モーター・レーシングに理解があるプロデューサーがいたからこそできた番組なのだけれど、そのせいか、マニアよりになってしまったのが残念といえば残念でした。
羽端:うむ、なるほど。
STG:まぁ、これを機に、サクラをより多くのマスコミに開示してほしいですね。いや、[STINGER]に見せろとか了見の狭い事じゃなくて(笑)、F1GPというレベルを広く世間に伝えるために、一般マスコミの関係者に見せてほしいですね。ついでにマクラーレン・テクノロジー・センターも、イギリス駐在の日本のマスコミ各社を招待するとか。
羽端:おお、いいですね、それ!
STG:もう一つちょっとと思ったところは、エンジニアが、ニコニコしすぎかな、と。
羽端:明るく仕事をしているのはいいけれど、でも、連戦連勝しているわけではないんだし?
STG:いや、勝ち続けたらもっとプレッシャーがかかってニコニコできなくなるかも(笑)。それぞれ一生懸命やっているのは分かるんですけど、撮り方ですかね。なにか気軽に仕事をしている風に見えちゃったのが残念でした。もっと気合が入った仕事をしているはずなので。
羽端:彼らが登ろうとしている高くて険しい山が、視聴者に低く見えてしまう?
STG:です、です。
◆ビアンキと松下のハンガリー!
羽端:ところで、いわゆる「ドライバーエイド」が禁止になりましたよね?
STG:ドライバーは誰の助けも借りずに走行しなければならないという条項を、厳格に適用するということ。でも、それが実際のレースに適用されるのはベルギーGPからですかね。
羽端:あ、そうですね。じゃあ、今回ハンガリーでのスタート問題は、その「エイド」ウンヌンということではない、と?
STG:とにかく、フェラーリの二人がメチャクチャ巧かったんですけど、私はオカルトチックになってしまいますが、そんなことはないんでしょうけど、ビアンキが乗り移った、と思いたいです。
羽端:レース前に、祈りがありました。
STG:スタート前のドライバーがヘルメットを中央において円陣を組んで黙祷した場面は、とてもエモーショナルでした。ビアンキは、フェラーリの次代を担う逸材で、寂しそうな表情もあって、気になるドライバーだったですね。永眠は残念だったけれど、オンガロリンクに招待された家族も、はなむけができたのでは?
羽端:ジュール(・ビアンキ)にいいレースを見せるぞ、とみんなが思って・・・・。そういう日曜日であった。そして、そのスタートですけど、ハミルトンはミスったわけではなくて?
STG:ミスったとは、いえないと思います。だから、ビアンキですよ!
羽端:そうか! レースは何が起こるかわからないということを観客に示せた。そういう意味でも、また「ショー」としても、今回のハンガリーはよかったと思う。
STG:それから、マクラーレン・ホンダも、松下信治が乗り移った。
羽端:そうだ、彼、優勝したんですよね!
STG:サポートレースのGP2の第二レースで君が代を演奏させてくれまた。第一レース、彼はオンガロリンクは初めてだったのだけれど、セッションが進むごとにどんどん慣れていったものの、予選は完全に失敗して21位。で、8位でゴールですから。
羽端:抜けないはずのオンガロリンクで?
STG:ですです。で、8番手は リバースグリッドのポールポジョン。
羽端:お〜!
STG:ならば優勝に価値はないように見えますが、今回は、ミスターGP2のチームメイトの驚速ストフェル・ヴァンドーンが4位からダッシュを決めて2番手に来たけれど、彼を完全に押さえ込んで、レースペースを作って優勝したんです。
羽端:やりますねえ!
STG:で
すです。で、所属チームのARTが1-2フィニッシュしたんですが、マクラーレン・ホンダのジュニアチームで、カラーリングが同じ(笑)。
すです。で、所属チームのARTが1-2フィニッシュしたんですが、マクラーレン・ホンダのジュニアチームで、カラーリングが同じ(笑)。
羽端:フム!
STG:その松下信治が乗り移って5位9位です(笑)。
羽端:ともかく、ここは抜けない(パッシング・シーンがない)サーキットだとか、事前には、その手のことばかりいわれていて。それでポールはルイス(・ハミルトン)だったし、ニコは遅いしで。まあレッドブルだけは速そうだったけど・・・・という、そんなグランプリになりそうだったのに、いやー、わからないものです(笑)。
STG:それがF1ですね。ただし、時々しかこんな展開は起きないけれど、この日を信じて、寝ないで待つ、と(笑)。
羽端:それにつけても、キミ・ライコネンのバッドラックという連鎖が、ここでも止まらなかった。相手が日本人なら、お祓いでもしてきたら?・・・・とか言えるけど、キミはクリスチャンだろうし(笑)。
STG:では、懺悔を(笑)。
羽端:フェラーリがボッタスを欲しがってる説があって、バトンがマクラーレンを出る説があって。もちろん、みんな”説”ですけど(笑)。もし(来年以降)フェラーリにいないのであれば、キミがそのラストキャリアの一年をマクラーレン・ホンダで走ってくれたらいいな、なんて思ったりしますが。
STG:いや、噂では、キミはリタイアすると。なので、松下信治を(笑)。その後には、笹原右京も控えているし!!
◆次なるマクラーレン・ホンダのターゲットはシンガポールか!
羽端:アロンソが、このチームが戦闘力を発揮できる場所はモナコとハンガリーと、そしてシンガポールだと言ってますね。一方で、スパとかモンツァは辛そうだ、と。
STG:ですね。特にスパは長い直線と登りがあるパワーサーキットですから。
羽端:どっちかと言えば鈴鹿は、その辛い方になっちゃうのかな?
STG:ですね。でも、レッドブルのダニエル・リカルドは、そのパワーサーキットのスパでも、それなりにヤレルと言ってますね。あくまで”それなりに”ですけど。
羽端:ホンダは、まだトークンも残ってるんでしょうし、どんな後半戦になっていくのか。フェラーリはまた勝つのか、レッドブルにもチャンスありだなとか。そんな展開になりそうで、楽しみです。
STG:マクラーレン・ホンダの成長は、やっと自分のからだを引っ張り上げるために、指先がひっかかったところで、ペースはまだまだ充分速いとはいえない、トークンがあるからなんとかなるってことでもない気がしますが、ハンガリーを見る限り、安定して走れるようになったので、少しだけ期待しておきたいところです。
【西湘-西八王子】
Photos by
Ferrari S.p.A / FERRARI MEDIA(ライコネン)
Infiniti Red Bull Racing / Getty Images/Red Bull Content Pool(リカルドとクビアト)
McLaren(マクラーレン・テクノロジーセンター)
Honda Racing/LAT Photographic(円陣を組むドライバーたち)
GP2(GP2表彰台)
McLaren/LAT Photographic(その他)