アロンソが、ホンダのPUを”GP2″と罵った本当の理由
バトンは、八郷隆弘社長と笑顔で記念撮影をしたが、アロンソは別のやり方を採用した?!
メルセデスが圧倒的なスピードを取り戻した鈴鹿の日本GPのレース中、中団に埋もれていたマクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソが、ホンダのパワーユニットを、”GP2レベル”と無線で叫んだことが話題を呼んでいる。
大方の意見が、ワールドチャンピオンがいよいよ腹にすえかねて怒り心頭に発した、という解釈だが、アロンソが、このタイミングで、そしてホンダのお膝元の鈴鹿でそれを言ったことにはもう少し深い意味がありそうな気がする。
若干古い話になるが、1990年代終盤の2輪のモトGPのフランスGPのことだ。250ccクラスでチャンピオンを奪っている原田哲也が、ヤマハの250ccで、優勝を逃した。表彰台から降りてトップ3の会見に参加した原田は、マイクを向けられると、日本語で、一気にヤマハの悪口をまくし立てた。その光景を目の当たりにして、かなり驚いたのだが、原田の気持ちは、ヤマハに対する腹立ちではなく、ダイレクトなメッセージだったとあとで本人から聞いて思わず唸った。
会見で原田は、”こっちは命を張って乗っている。同じテンションで開発を進めてもらわないことには、フェアじゃない”というようなことをコメントした。狙いは、鬱憤晴らしではなく、日本のヤマハの中枢に、マスコミを通じてダイレクトに声を届けるためだった。
それまでも、何度も同じことをチーム内でヤマハ関係者に伝えていたが、現場レベルでは理解されても、たとえば予算の決定権を持つ本社サイドに声が届かなければ、充分な開発はおぼつかない。
だから原田は、メディアを利用して、本当の気持ちを伝えたのだ。英語ではなく日本語だったのは、そうした深慮遠謀があったからである。アロンソも、同じ考え方でコメントしたのではないかと思える。
そもそも、冷静なアロンソが、単にむかっ腹が立ったからと、感情的にそんなコメントをするとはとても思えない。もしそうなら、とっくに、モンツァでもスパ-フランコルシャンでも、パワー不足に業を煮やすレースはあったが、そこではなく鈴鹿だったのは、アロンソは、そのタイミングを待っていたのではないか。
鈴鹿には、八郷隆弘新社長も登場した。ならば本人に直接伝えればいいと思うかもしれないが、大切なのは、ホンダ全体を動かすことだ。八郷社長だけに伝えるのではなく、実際の動きにつながるように、上層部や、株主までを含めて、もっと本気になる必要があることを知ってほしかった。だからインパクトがある方法選んだ。それがアロンソの気持ちではないか。
アロンソの”真意”がホンダにどう伝わるか。ホンダの今後を、ますます注目しておきたい。
[STINGER]山口正己