ハース6位の立役者–小松礼雄エンジニアの開幕戦2/2
(1/2からつづく)
◆6位の意味
ロメイン・グロジャンの6位がどれだけ素晴しいかを見てみよう。
メルセデスとフェラーリ、そこにウィリアムズとレッドブルが続き、とここまでで、実力のある上位チームがすでに8台。さらに、去年も時折上位グループに加わっていたフォースインディアと、ポテンシャ
ルをグンと上げたことをテストの段階から証明していたトロロッソが加わって12台である。実績のあるこれらのチームを出し抜くのは簡単ではない。
つまり、”その他”のチームの中で一番になっても13位でしかないのだ。
もちろん、決勝レースともなれば、不確定要素が入り込んで、トラブルやアクシデントで戦列を去るマシンも出る。けれど、当然ながら不確定要素は、下位チームほど、そして新しいチームほど”出逢い”の確率が高くなる。そうした状況を乗り越えて予選19番手から6位でゴールしたのだ。だから快挙と言いたい。
とはいえ、予選が19番手のQ1落ち。Q2に行けるマシンと思っているという小松の期待通りにいかなかったのは、まさしく新チームらしく1分でこ
なさなければならないタイヤを交換して次に備える準備に2分以上かかってしまい、アタックのチャンスを逃したからだった。しかし、チームはそれをレースで取り返した。
改めて結果を振り返ると、チェッカードフラッグが振られたときにグロジャン+ハースより前にいたのは5台。2台のメルセデスとフェッテル+フェラーリ 、リカルド+レッドブルとマッサ+ウィリアムズだけだった。
確かに、16周目にアロンソ+マクラーレン・ホンダとグティエレス+ハースが接触して赤旗中断になったことは彼らに有利に働いた。そこでタイヤを交換したからだが、アクシデントの後に、セフティカーが入った。通常なら、タイヤの磨耗が限界状況だったから、即刻交換してもいいはずのところを、タイヤ交換を主張したグロジャンを、小松はなだめて、コース上に留まらせた。その2周が好結果がつながった。
「ロメインは、”もう走れないっ!!”、て言ったんですけど、ボクが責任持つから、と説得したんです」
小松さんの読みは、タイヤ交換を1回で済ませる、というものだった。セフティカーが入った直後に交換すると、残りは40周以上になってしまう。次に交換する予定の今回のレースで供給された3種類の中で最も固いミディアムタイヤの限界は40周だったのだ。
レースは57周、そこから40を引くと、17。セフティカー直後にピットインしていたら最後まで走れない距離だった。
「ホントは、計算上では39周だったんですけど(笑)。とにかく、タイヤ交換を1回にすることにして、ロメインをなだめて説得しました。嫌がってましたけど、結果はそれでよかった」
◆乱暴者の本当の力
ロメイン・グロジャンは、2009年のシーズン途中からF1にデビュー。2年間のインターバルをおいた2012年、3回表彰台に乗って見せた後のスパ-フランコルシャンのベルギーGPのスタートで、大クラッシュの原因になったとして次のイタリアGPの出場停止処分を受け、乱暴者の烙印を押された。
運転のセンスは素晴しいものを持っているが、繊細でガラスのような神経の持ち主といわれ、その結果、自分を追い込んでしまうことでのクラッシュも多く経験していた。しかし、小松礼雄に出会ってから、少しずつレースの進め方が変わってきた。
いい仕事をしたロメイン・グロジャン。ここからが正念場だ。
エンジニアの仕事は、サスペンションを中心とするマシンの動きやレースの流れの調整だが、”ドライバー・エンジニアリング”という言葉も存在する。ドライバーを叱咤激励して、力を100%発揮させる仕事だ。
不安な心境になりがちなロメイン・グロジャンのようなドライバーには、とくに”支え”が必要だ。乱暴者扱いをされていたグロジャンの才能を小松は信じて、「オマエはできるのだ」と伸び伸びと走れる環境を提供し、グロジャンは、成長し、そして2016年開幕戦で新チームで6位に食い込んだ。
「いい仕事ができた。勝ったみたいな気分だよ。この数週間でハードワークをこなしてくれたみんなの仕事ぶりは信じられないほどだった。昨日はツイてなかったけど、今日は赤旗でちょっとラッキーだったね。それでもウィリアムズ(バルテリ・ボッタス)とフォース・インディア(ニコ・フルケンベルグ)を抑えることができたよ。僕らはマシンをセットアップする時間があんまりなかったけど、どうなるか確かめるためには先へ進むしかなかった。信じられない気分だよ。みんなアメージングな仕事とをしてくれた彼らに伝えた。”僕らにとっては優勝みたいなものだ”ってね」
グロジャンはレース後、目を輝かせてそう言って、小松礼雄の目尻にシワを深くした。
エンジニア小松礼雄とロメイン・グロジャン、そして彼らが所属するハース。メルセデスとフェラーリの闘いも気になるし、マクラーレン・ホンダからも目が離せないが、今年の注目チームに二重丸付きで推薦し、そして見守りたい。
[STINGER]山口正己
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