ホットライン 2016 round7 / カナダGP–ハミルトンの”復活”とホンダの”進化”
残念ながら、混沌を期待させる雨は降らなかった。しかし、スタートでフェッテル+フェラーリがスタートダッシュを決めるインパクト。最後はハミルトンが本来の力を見せて5度目のカナダの勝利を飾った。一方、Q3には進んだものの連続入賞とはならなかったが、マクラーレン・ホンダの”進化”も今後を楽しみにした。
クルマ好きのエディター・羽端恭一さんとSTINGER編集長が、”渋め”カナダGPを振り返る。
◆強くて巧かったカナダのハミルトン
羽端恭一(以下、羽端):うーん、渋いグランプリでした(笑)。
STINGER編集長(以下、STG):確かに渋かった(笑)
羽端:渋いって、自分でも若干、意味不明ですが(笑)。ただ、雨が降ったりもせず、ポールシッターのルイス(ハミルトン)がそのまま勝って、マクラーレン・ホンダはやっぱり”定位置”でとか。こうやって並べていくと──。
STG:雨、期待してたんですけどね。でも降らなかったから、いつもと同じだったとも言える?
羽端:そうなんです。でも、よく見ると、おもしろいことがいろいろありました。たとえば、勝ったルイスとタイヤの関係とか。
STG:ワンストップでしたね、ハミルトンは。
羽端:モナコでもそうでしたけど、タイヤを保たせるのが巧いんでしょうね、彼は。
STG:う〜ん、それもあるけど、クルマもいい(笑)。
羽端:なるほど。
STG:今回は、気温や路面温度が低かったことも関係しているかも。
羽端:そんな日曜日だったようですね。でも、それをすかさず利用できるのが才能かな、と。まあ、チームもいろいろ思いつくんでしょうね。ルイスならやれるだろうとか。
STG:ですね。でも、モナコより前とは、随分表情がよかった気がします。インタビューや会見で、何度も、「ワッハッハッハ」と大笑いしていたし。モナコの勝利で吹っ切れたんじゃないかな。ロズベルグの”7連勝の呪縛”から開放されたんだと思います。
羽端:ははあ。そして、勝てなかったフェッテルについて、首位なのに何で先にタイヤ交換に(ピットに)入るんだ?という意見もあるようです。でも、セブ(フェッテル)のツーストップは、作戦としてスタンダードというか、王道だったんだろうと思うし。
STG:後で外野はなんとでもいえるということでしょうね(笑)。
羽端:セブも、チームのその作戦に文句は言ってませんよね。タイヤ戦略で間違えて2位になっちゃったわけじゃない、ということで。
STG:今回のフェラーリは、もちろんフェッテルは満足していないだろうけれど、きちんと力を示せた、という意味では満点だったんじゃないでしょうか。観客と、それからピットに手に汗握らせた、というフェラーリの”役目”を全うしてましたからね(笑)。
羽端:アリバベーネ(フェラーリ)代表も盛り上がってましたね。
STG:とくにスタートでトップに立った時は、万才状態で(笑)。
羽端:決勝日が低温だったので、さまざまなタイヤ作戦が可能だったと、ピレリ側もレース後のリリースで触れてました。ボッタスも、ワンストップで表彰台ゲットだったそうだし。
STG:ウイリアムズは久々の表彰台でしたね。特に日本人メカの白幡さんが担当するボッタスが3位だったのはうれしいですね。
羽端:おおー! ボッタスはそういうクルーに支えられたドライバーでしたね。
STG:タイヤ交換のスピードは、随一のウィリアムズですから。
◆”蝶のように舞い、蜂のように刺す”!
羽端:ルイスは今回、レースしてて、よっぽど気持ちよかったのか、フィニッシュ後のコメントの中に、あのモハメド・アリ氏の言葉を入れてましたね。
STG:蝶のように舞い、蜂のように刺す、ってあれですね。
羽端:今月の初めでしたか、アリ氏の訃報が世界を駆けめぐって・・・・。ただ、彼が「アリ」になる前は別の名だったというのは、もう誰も覚えてないのかな。訃報の記事でも、そのへんに触れてるのはほとんどなかったような。彼はカシアス・クレイという”普通のアメリカ人”の名前を持ってました。そのアマチュア・ボクサーがオリンピックでメダルを取り、そして、ヘビー級のチャンピオンになった。彼が「蝶のように舞い、蜂のように刺す!」と、自分のボクシング・スタイルについて語ったのは、彼が「クレイ」だった頃で。
STG:そうですね。スカイスポーツのカナダGP決勝直前番組では、関係者にアリの想い出を語る企画をやっていました。メルセデスのラウダ会長や、そしてハミルトンもそれに応えてました。
羽端:ルイスはずっと、アリ氏をどこかで意識し続けていたんでしょうね。もちろん、二人が同じ肌の色だということもあると思いますが。
STG:かもしれないですね。
羽端:でも”蝶のように”というのは、ヘビー級ボクサーとは思えない軽快なフットワークということですから、レーシング・ドライビングにはピッタリの表現かもしれない。コーナーで抜いたりするから、”蜂のように刺す!”し。
STG:ですね。
◆マクラーレン・ホンダのステップアップ
羽端:マクラーレン・ホンダについては、今回は私は、とくにコメントなしということで(笑)。
STG:いや、今回、ジェンソン・バトンが9周でエンジンが壊れたじゃないですか。あれを、数カ月前に予測していた知り合いがいます。「タービンを大きくすると8周しかもたない」みたいに。
羽端:それはおもしろい。でも、今回は9周だったような?
STG:ジル・ヴィルヌーブ・サーキットは、ちょっと短いのでちょうど辻褄が合う(笑)。
羽端:なるほどね!
STG:で、壊れたことを言いたいのではなくて、ホンダがまたまた次のステップに進んだ、と私は思いました。壊れるのはもちろんよくないけれど、壊れないで完走だけできても未来はない、ということで。まずはポテンシャルの高いブツを投入して、耐久性信頼性をこれから着けていく段階になった、と解釈したいですね。
羽端:ははあ、だからブーリエも、今回はホンダとエッソ(燃料)のおかげで、コンマ5秒だったか、速くなったという意味のコメントをしてたのか。
STG:そういうこともあるでしょうね。
羽端:マクラーレンとホンダを分けて考えるのはいけないんでしょうけど、けっこうマクラーレン側が、しばしば”分離主義”で来るんですよね(笑)。
STG:いや、そうではない気がします。
羽端:というと?
STG:生産車メーカーであるホンダにいい意味での”F1プレッシャー”をかけるためと思います。それを真に受けて、”じゃ、シャシーはどうなんだ”と反論するのは間違いですよね。パワーユニットのポテンシャルが足りてないのはウソではないわけなので。
羽端:フムフム。でも、たしかに今回の予選では、トップとの差が、これまでの「1.5秒」から「1秒」になってた。
STG:ですね。それも、全開時間が長いコースで、ですから。まぁ、分析の仕方はいろいろをると思いますけど、都合よく期待しておきたいです(笑)。
羽端:そうですね。今回、ホンダは新しいことをやったはずなので、それについては注目すべきでした。それで、着々という感じはします。この点については、あえて分けて言いますが(笑)ホンダは立派だと。
STG:といっても、まだ立派と褒めるの早いかと思います。F1をやってるのだから、当然のこと、ということで(笑)。
羽端:そうか(笑)。ただ、F1って凄いなと思うのは、たとえば、今回はウイリアムズが速い。でも、前回マクラーレンは、たしかフォース・インディアと競ってた。マクラーレンの相手というかライバルが、レースによって変わるんですよね。
STG:コースの特性もあったりすると思います。向き不向きとか。
羽端:それも興味深いですが、一方では、何というか、いつも”動いてる”ってこと。トップの方でも、メルセデスとフェラーリ、レッドブルの距離が縮まってきたし。
STG:それはあるある(笑)。
羽端:今年のF1、おもしろくなってきました。
STG:頭に、”ますます”と付けた方がいいですね(笑)。
羽端:そこに”ようやく”と付けようとして、実は自粛した(笑)。
STG:次回のアゼルバイジャンは新しい舞台になりますからね。何が起こるか、初のサーキットで、チームがどんなことをしてくるか。じっくり見物したいです。
羽端:イエイ!
[STINGER]
Photos by
Ferrari S.p.A / FERRARI MEDIA
McLaren Honda/LAT Photographic
MERCEDES AMG PETRONAS Formula One Team
WILLIAMS F1 TEAM / LAT Photographic