知ってた?浜島エンジニアのタイヤ基本レクチャー—鈴鹿の日本GPを読む—
◆視聴者置いてけぼり解説のテレビではわからないタイヤの選び方
黒くて丸いだけのタイヤ。しかし、実はそこにはノウハウが詰まりまくり。タイヤがレースの流れを握っていることも少なくない。いや、場合によっては、タイヤがレースの決め手になるケースもかなりの頻度で存在する。
つまり、タイヤを知ればレースがより面白くなるのだが、最も多くの人数がF1を観ているはずのフジテレビの解説では、なかなか基礎的な話をしていただけず、知ったかぶり合戦の視聴者置いてきぼり状態になっていることもご存じの通り。
そこで、いまさらと思われそうな質問を、基本的な説明をする機会がないジレンマを感じている(?)と勝手に解釈して、浜島裕英エンジニアに疑問をぶつけ、各チームにレース毎に13セット渡されるタイヤの基本をお尋ねした。これで、鈴鹿のF1がもっと楽しくなる!?
◆鈴鹿で供給される13セットのタイヤ
まず、今年ピレリが用意するコンパウンドは4種類。そのうちの3種類が、コース状況や想定気温などから選定されて、合計13セットが各ドライバーに渡される。
3種類の配分を各ドライバーが決め、鈴鹿には、表のようなタイヤが供給される。
鈴鹿サーキットの日本GPに供給されるタイヤは、ハードとミディアムとソフト。今年から登場したウルトラソフトを除く3種類で、スペインやイギリス、マレーシアなど、高速もしくは高温でタイヤにストレスがかかるサーキットと同じ組み合わせ。
ドライバーは、この3種類合計13セットをそれぞれ好きなセット数を注文でき、ここで微妙に各チーム、各ドライバーが選択したタイヤに差が出る。
—-まずは基本的なことから。レースで2セットを指定し、Q3に一番柔らかいタイヤを残しておきなさい、という規則の目的は?
浜島:供給の種類を3種類にしたのは、レース戦略が単調になるのを防ぐために選択幅を広げたわけですが、ピレリとしては、無茶な使い方は困るので、使うタイヤに制限をつけた。
—-レース中に2種類の使用タイヤを指定ましたが、無茶とはどんな?
浜島:たとえば全部ウルトラソフトで走ろうとしたり(笑)。まぁ、チームもそんなにバカじゃないのでそこまではやらないと思いますけど、タイヤを供給する立場からは、心配になりますね。
—-ピレリにとって最も怖いのは、タイヤが壊れることでしょうから。イメージ的に避けたいと。
浜島:ですね。
—-さらに、供給される種類の内訳を、ドライバー毎に選べる規則ですが、選び方によってどんな違いがあるのでしょう。
浜島:前半戦を振り返ると、新人ドライバーを抱えるマノーなどは、できるだけドライバーにたくさん走るチャンスを与えたいということで、結果として固めのタイヤを多く選んでいました。
—-なるほど。ドライバーが経験豊富な場合は?
浜島:トップチームは予選とレースで使う最低限のミニマムをとっておけばいいわけです。
—-鈴鹿の場合、二人のドライバーの選択結果を見ると、一番柔らかいソフトタイヤの数は全チーム同じですが、ミディアムとハードのセット数は、2人を分けている場合とそうでない場合があります。
浜島:3種類の中で一番固いタイヤが多いドライバーが、フリー走行でロングランを担当です。たとえば、鈴鹿のメルセデスは、最も固いハードを、ハミルトン3セット、ロズベルグ2セットにしています。ハミルトンがロングランを担当して、タイヤの耐久性や劣化の算定する、ということです。フェラーリはフェッテル、ウィリアムズはボッタスがロングラン担当ですね。
—-フェラーリがソフトを多く選んでいるのはなぜでしょう?
浜島:コースとしてハード向きだけれど、ワーキングレンジの温度(タイヤが本来の力を発揮できる温度)が低いミディアムは、タレちゃって使い物にならないと踏んでいるのではないでしょうか。で、万が一に備えて1セットだけは確保しておく、ということかと。
—-鈴鹿のピット戦略はどんな感じになるでしょう。
浜島:基本は2ストップになると思います。ミディアムでスタートして、ハードに交換する。しかし、状況によって、ミディアムの性能劣化が大きいようなら、ハード、ハードでつなぐ3ストップになるかもしれません。
—-鈴鹿はテクニカルで、タイヤに負うところが大きいと思います。タイヤの使い方にも注目してレースを楽しみたいです。ところで、フェラーリはタイヤ戦略が外れることが多いような。復帰して、助けてあげてください。
浜島:いやいや(笑)。
[STINGER]山口正己
Photos by
Pirelli & C. S.p.A. – Pirelli Tyre S.p.A
PIRELLI / STUDIO COLOMBO