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開幕戦の大逆転劇?マクラーレンとハース、そしてトロロッソ・ホンダ

木曜日、マクラーレンのピットは綺麗に整理整頓されていた。

ポールポジションのルイス・ハミルトンは、レース中盤に入ったセフティカーでスローダウンした隙に、フェッテル+フェラーリの好判断のタイヤ交換ストップで順位を逆転された。

そもそも、ハミルトンは、「フェラーリとの差は確実に縮まった」とコメントしていたように、フェラーリがスピードを延ばし、メルセデスにぐっと近づいて、拮抗したレースになることが見えていた。

そして、メルセデスが破れたもう一つの要因は、オーストラリアのコースが一筋縄ではいかないことを証明するように、ボッタス+メルセデスがコンクリートウォールの餌食になり、ハミルトン+メルセデスは1台でフェッテルとライコネンのフェラーリと戦わねばならなかったこと。これも結果に影響した。セフティカーのタイミングは偶然とはいえ、その連鎖がフェラーリに微笑んだ。

レースは、速いだけでは勝てないことが見えるレースだった。そして、分かったような”読み”よりもっと深い展開の逆転劇がおきることも。

◆トロロッソ・ホンダvsマクラーレン・ルノー

これがシーズン開幕前、最も興味深い話題だった。そして以下のような勝手な筋書きをたてていた。

『マクラーレンが揺れている。いや、本人たちは微動だにしていない、と言っているが。家が火事なのに、フェルナンド・アロンソが”全然ヘッチャラ”と微動だにしない風刺画がどこかにあった』

これが開幕前の筋書きのはずだった。いや、決勝のスタート前、と言ってもいい。予選での一発の速さはテストの段階から証明されていたが、信頼性に問題があった。マクラーレン・サイドは、「あくまで初期トラブル」とコメントしていたが、それは強がりと思われていた。

『トラブルが起きたのは事実。問題は、「小さなトラブルが起きる理由」だ。その理由を認識した上で、彼らがそう言っているなら、問題はないだろう。しかし、往々にして、些細な問題には気づかないことが多い。気づかないから問題は起きる』とも予測した。

しかし、開幕戦のレースが進むごとに、様子が違うことが見えてきた。ガラスのマクラーレンでもなく、瞬間的に音を出すカスタネットでもなく、フェルナンド・アロンソもストフェル・ヴァンドーンも、まさしく快調そのもので58周を走りきった。

◆今井弘チーフの読み

日曜日の13時45分、スタートの2時間ほど前に、マクラーレンの今井弘チーフ・レース・エンジニアに話を訊いた。

ブリヂストンからマクラーレンに移籍したのが2009年、最初は、タイヤの知識を活かすために、『プリンシパルエンジニア・ビークル・エンジニアリング』としてチームにジョイントしたが、「これもやってよ、というのが増えて」、現在は、現場にいる10人ほどのエンジニアを統括し、レース全体を仕切るポジションにいる。

「ハードウェアも組織も違いますので、仕事の進め方すべてが同じわけではないですが、根本的な作業に違いはありません」。ホンダからルノーに変更になって変化があるのか、という質問に、当然の答えが返ってきた。

「最終的にいい結果を出す、というのが目標なので、基本的なアプローチに違いはないと思います。ホンダとルノーというと、日本人とフランス人、という違いではなく、技術的なアプローチ、運営する上でのアプローチの違いはもちろんありますが、日本人フランス人という違いはありません。」

「ホンダさんの場合は、2008年で一端活動を休止され、F1の感覚を呼び戻すのに時間がかかったという違いはあると思います。もちろん、私がおつきあいしている方々は、レースの仕事をしているので、その違いがあると思っていないですが。やはり、ずっと続けているのと、一端止めてもう一度スタートというのは、どうしても違いが出てしまうと思います」

◆小松エンジニアの俯瞰視点

今回の開幕戦で、結局はトラブルで2台とも戦列を去ることになったが、めざましいスピードをみせたハースF1チームの小松礼雄レースエンジニアは、テストを終わった段階で、「速さには自信がある。レースを走りきれれば」とコメントしていた。

木曜日に話を伺ったときも、その姿勢は微塵も変わらず、ケヴィン・マグヌッセンとロマン・グロジャンが6-7番手という殊勲というより驚きの予選後も、「ポジションは変わらないと思いますが、もう少しタイムは行けたと思います」と、総責任者としてのスピードへの自信を迷うことなくコメントした。

「なので、嬉しいというか、一安心です。あとはレースを完走できるか。何せ200人もいない小さなチームですから」

“小さなチーム”とは、ハースを卑下しているのではなく、現実を直視しているコメントだったことを、マクラーレンがポジションを守って走りきり、ハースがリタイアしたレース後に改めて理解した。決勝レースは、小松エンジニアの言う通りになった。

マクラーレンは「でっかいチーム」(小松エジニア)だ。でかければいいのではないが、たとえば、何らかのトラブルが発見されたとき、でっかいチームなら短時間、たとえば次のレースまでに解決できる。まさしく、マクラーレンが、テストからの2週間で問題を解決したように。

「でも、ちっちゃいチームでは、原因が分析できていても、修正されるまでに5レースかかっちゃったりするんです」

トロロッソ・ホンダの結果も照らし合わせると、「でっかい」と「小さい」の違いが偶然にも結果に現れていた。

トロロッソ・ホンダは、ハース同様「小さい」チームだ。もちろん、だからトロロッソはワークスであるホンダをリスペクトし、いい関係を保てている。しかし、レースは仲良しクラブではない。

「でっかい」はずのホンダがトロロッソにリソースを含めた力でそのポテンシャルをどう伝えきれるのか。F1GPは、2018年開幕戦で、極東の島国に新たな試練を与えた。

STINGER 山口正己
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