衝撃のデビュー、1988年のマクラーレン・ホンダと2009年のブロウンGP
「いいクルマは、ピットレーンを動き始めた瞬間に分かる」。日本人で最初にF1の表彰台を射止めた鈴木亜久里さんの名言だ。これを裏付けたF1マシンとして即座に思い出すのは、1988年のマクラーレンMP4/4ホンダ、そして2009年のブロウンBGP001だ。テストからぶっちぎりに速かった。
1988年のマクラーレン・ホンダは、プロストとセナという最強の組み合わせに、群を抜いて優れていたホンダ・ターボと、鬼才ゴードン・マーレイがデザインしたマクラーレンMP4/4のシャシー性能が相まって、16戦15勝という記録を残すことになったが、テストの段階から圧倒的なスピードを見せていた。
そっくりな状況だったのが、2009年のブロウンだった。マクラーレン・ホンダを担当していたホンダのエンジニアは、テストでのブロウンGPを見て、1988年の再現を予測し、その通りにシーズンが進んだ。
ホンダからチームを1ポンドで買い取ることになったロス・ブロウンのマシンは、KERS導入の虚を衝く形でシーズン前半を牛耳ってチャンピオンを取るのだが、これは、ロス・ブロウンの作戦勝ちと言える側面があった。
2009年は、KERS(Kinetic Energy Recovery System)が使える最初の年。KERSとは、現在のハイブリッドのベースになるシステムで、ブレーキのエネルギーをパワーに転換する。このシステムの可能性は非常に高かったのだが、開発間もない状況から、実力を発揮するには時間がかかる代物だった。ここにブロウンは目をつけた。
要するに、自動車メーカーが関係するチームでは、先進技術としてのKERSを採用せざるを得ず、シーズン序盤は苦労すると読んだブロウンは、極めてコンベンショナルな形でBGP001を設計して投入。奇をてらったことをしていないマシンは開発期間がほぼゼロで済み、ブロウンの狙い通りにシーズンは進み、シーズン前半の7戦で6勝したジェンソン・バトンが、そのまま逃げきってワールドチャンピオンを奪った。
今シーズンの状況が、若干2009年に似ていなくもない。ダウンフォースが大幅に削られ、方向転換が余儀なくされる状況の中で、マシンポテンシャルのレベル設定をどこに置くか。
そして、今年の車両レギュレーションを創ったのが、そのロス・ブロウンというところも面白い。もうすぐ発表されるニューマシンが、2月18日から始まるテスト初日にどんな走りをするのか、まさに興味津々。
[STINGER]山口正己
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