ホットライン2010 round1 バーレーンGP
◆バーレーンという特異性
クルマ好きのエディター・羽端恭一さんとスティンガー編集長が、2010年開幕戦、バーレーンGPの裏舞台をズバリ診断する。
羽端恭一(以下羽端) 2010年シーズンが開幕しましたね。
[STINGER-山口正己](以下[STG]) 今年は、例年になく、・・・って毎等言ってる気がする(笑)。ともあれ、開幕戦は、勝手に想像力を膨らませることができるから、いつでも一番高揚感があって楽しいですね。
羽端 ふと思ったんですが、開幕戦がバーレーンのザヒール・サーキットというのは、チームにとってはどうなんでしょうね?
[STG] どうって、砂漠の中のサーキットですよ(笑)。
羽端 いや、たとえば、開幕戦がいきなり「モナコ」だったら、コース的にちょっと特殊すぎるでしょ?
[STG]それはある意味バーレーンでも同じと思います。まずは、気温がテストの時と全然違う。
羽端 お、そうか。コースのことばっかり考えていて、ロケーションはあんまり考えてなかったな(笑)。でも、テストをやっていたバルセロナは、南欧、スペインですよね?
[STG] “南欧”といっても、そこはヨーロッパで、気温は10℃台とか、そんな感じで。
羽端 なるほど、アラビア半島とは違うんだ。
[STG] ですね。バーレーンは30℃を軽く越えて、路面温度は40℃以上ですから。
羽端 サーキットのレイアウトだけでいうと、どうなんでしょう? 速すぎず遅すぎず、超高速でも超低速でもなく、そして過度にトリッキーでもなくという感じで、一年の”腕試し”というような意味では、けっこう中庸でいいような気もしますが?
[STG] そういう意味ではそうだけれど、場所が場所だから、特に新チームは大変だったと思います。直前でカンポスからチームを譲り受けて名前を替えたイスパニアは、「走れただけで大成功。レースでは合計で20周も走った」。とリリースを出してましたから。
羽端 ムフフ、そのくらいで感激できるわけね(笑)。フリー走行や予選では、”異クラス混走”とまではいわないけど、でも、上位と下位とでチーム力の差がありすぎて、ちょっと心配でした。
[STG] イスパニアを観ていて、スーパー・アグリを思い出しました。2004年、あらら、もう6年前なんですね、同じバーレーンがデビューだったこともあるし。観に行くだけで、エアチケットからホテルの手配やら、通信回線がどうのとドタバタです。見物するだけでこれだけ大変なんだから、参加する難易度の高さは想像も付きません(笑)。クルマの中でも競争するために作られたF1をまともに走らせるだけで簡単ではない。新チームは、その上に、誰が何をやるかに始まって、いろいろな慣れも必要だし、あれこれ準備をしなくらゃならないわけで、トップチームと差がつくのはある種の宿命ですね。
羽端 なるほどね。……でもって、レースになったら、そういう”走るシケイン”で大混乱になるんじゃないかとか(笑)。
[STG] その心配も”勝手な想像”に含まれるので、だから開幕戦は楽しみなわけですね(笑)。それから今回は、コースの一部が追加されたんですが、それがバンピーでその対応が大変だった。
羽端 画面でも、下を擦って火花が飛ぶ場面がありましたね。
[STG] それを防ぐために、想定していた車高を高くしなければならない。そうなると空力バランスを中心に、すべてが狂ってしまう。さすがトップチームは、そうした突発事項の対応力が高かった、ということではないかなと。
◆2010年の「四強」は見えた!
羽端 さて、今年は「四強」といわれてますが?
[STG]これほど事前の予測とおりに開幕戦が進んだのも珍しいです。
羽端 フェラーリとレッドブルとマクラーレンと。
[STG] メルセデス、ですね。
羽端 ですね。「チーム」ということでは、この四つはたしかに、他のチームよりは上位にあると思えます。
[STG] 同感。もう少し詳細にいうと、フェラーリとレッドブルが2強で、マクラーレンとメルセデスが続いている。
羽端 第1戦だけでこんなこというのは、まだ早いけど(笑)、じゃあ4チームの「8人のドライバー」ではどうなんだ?ということでは、今年のドライバーの「三強」はもう決まったのでは?
[STG] それは言えてるかも。レース後に、ブリヂストンの浜島さんも、その指摘にうなづいていました。
羽端 ベッテル、アロンソ、そしてマッサ。
[STG] ご名答!(笑)
羽端 “シュー様”は、いまでもたしかに、ある”水準以上”にあるとは思うけれど、もう主役にはなれないような? 結論が早すぎるかもしれないですけど?
[STG] 結論が早すぎるのもあるけれど、もう少し楽しみたい、というか、いじりたいというか(笑)。
羽端 なんかねえ、地上波TVの画面で見ている限りですけど、顔つきも、すっかり”いい兄貴”みたいになってしまっていて、時代劇用語でいうところの「殺気」というか、そういう鬼気というか迫力があまり感じられない。
[STG] 確かに。ブリヂストンの浜島さんは、よく”一撃”という言葉を使ったりします。予選のここ一発のタイムを出すことですが、その表現からして、一撃の時は殺気がないといけないわけですからね。
羽端 今回、すべての局面で、マイケルがニコ・ロズベルクを上回ったというシーンは「なかった」のでは?
◆シューマッハ、得意の陽動作戦?
[STG] ただ、ひとつ、フリー走行3で面白い現象が起きている。
羽端 なになに?
[STG] ハードタイヤからソフトタイヤに替えた時に、ロズベルグとの差がグッと縮まった。当然その状況はロズベルグもデータで確認しているので、かなりいやぁな感じになったと思います。
羽端 どうして?
[STG] シューマッハがポケットに何か隠していると思ったかも。
羽端 そういえば、彼は差し出されたマイクに向かって、「ぼくらには、すごい『戦略』がある。必要なときには、エースを切る!」と語ってたんですが、マイケル、決勝で何かしましたか?
[STG]
それは、彼の陽動作戦のひとつじゃないのかな。多分シューマッハを嫌いな人は、そういう”策を弄するところ”を嫌がる。ありもしないことを言って相手の気分を錯乱させる、というような。
羽端 うーん、ひょっとしたら、チーム・メイト(ニコ)に向けて言ってたのかなあ? 考えすぎ?(笑)
[STG] いや、ロズベルグはともかく、ライバルにはそれとな〜く、伝えておきたい。事実はどうだか分かりませんけど、彼ならそこまで考えると思った方が今後に楽しみが残る(笑)。
◆ザウバーはどこまで伸ばせるか?
羽端 可夢偉は、ちょっとチームのポテンシャルが心配ですね。マシンが真っ白、ノー・スポンサーであるという部分も含めて──。
[STG] 資金については、潤沢ではないにしても、去年ブロウンGPにホンダが出したようにBMWが用意してくれているはずなので、そう心配はないと思います。
羽端 あ、そうなんだ。あと、ザウバーさんはかなりのおカネ持ちであるらしいですけど?
[STG] お金もだけど、それより、大きな会社がいなくなって、プライベート・チームになったわけですが、チームの中に、BMWがいたときと状況変化を感じ取っていないスタッフがいて、それが問題、という見え方もしました。チームワークの面から、むしろそれが重要。トヨタが勝てなかった大きな理由のひとつがそこだったりしますから。
羽端 なるほど。ともあれ、チーム・ザウバーが、「四強」につづく五番目の強者として、そのポジションをゲットできるか?
[STG] てすね。簡単じゃないと思いますが。特に、後ろにいるはずだったルノーとそれからフォース・インディアがポテンシャル高そうなので。
羽端 このフェイズでの、ザウバーのライバルはルノーとフォース・インディアってことになりますか。
[STG] ですね。
羽端 それはちょっと手強そう。ルノーは運転手がクビサでしょ。そして、フォース・インディアはクルマがすごくよくなってるような?
[STG] 小林可夢偉個人でいけば、まず同僚のペドロ・デ・ラ・ロサ、そしてGP2で同じ時代を育ったウィリアムズのニコ・フルケンベルグと、ルノーのヴィタリー・ペトロフとの関係を観ていきたいですね。
羽端 でも、ここで勝手に喋ってるようなことを全部、”華麗に裏切る”ような今後の展開になるというのも、F1らしくていい!
[STG] 確かに。でも、その”勝手”が面白いってこともありますけど(笑)。