ホットライン2011 round18 アブダビGP
クルマ好きのエディター・羽端恭一さんとSTINGER編集長が、アブダビGPの裏舞台をズバリ診断する。
◆アブダビは、「今年」を象徴するようなレースだった?
羽端恭一(以下羽端):なんか今年一年というか、もうちょっと細かくいうと、今年後半かな。そんな”2011年のF1″を象徴するようなレースだなあと思いながら、見てましたね。
[STINGER]編集長山口正己(以下STG):というと?
羽端:まず、ポールシッターがセブ(セバスチャン・フェッテル)である! これが何といっても”今年的”でした(笑)。
STG:確かに。14回目っての、ナイジェル・マンセルと並ぶタイ記録ですから。こういうのを、退屈症候群ともいいます。”フェッテル退屈症候群”(笑)。
羽端:お、編集長に、そこまで言ってもらえるとは!(笑)でも、ムカシの”マクラーレン・ホンダ退屈症候群”なんかと較べると、レッドブルはそこまで安定してないような気がするな。去年と今年で、たしかにセブは「変わった」とは思うけど、でも、セブちゃん(笑)の魅力は、まだまだ不安を残したコドモってところにあると思うんで。
STG:そうそう。セナ退屈症候群てのもあった(笑)。
羽端:まだまだ、そんなセンパイ方の域には達してないというのが、セブ君だと思います。まあ、もし来年も、今年と同じようにポールが取れているとすれば、そのときは、ちょっとだけ”退屈シンドローム”の気配になるとは思うけれど。
STG:いや、大きな声では言えないけど、今年はすでに退屈だったよ(笑)
羽端:ハハハ(笑)。それで、そんなセブに続くのが、今年は、チームでいうならマクラーレン。そしてパーソンで見るなら、そのチームの二人のドライバーと、アロンソ、ウェバーだと思います。彼らが2011年の”トップ・ファイブ”で、今年はこの五人がグランプリ・シリーズを牽引した。……で、このレースもまた、そのようになった。
STG:ですね。
羽端:小林可夢偉は、予選では上位に行けないという傾向を、ここでもキープ(笑)。しかし、決勝レースになると”フィッシュ”になって、上位車をすり抜けて来るという展開をまたもや披露した!
STG:ただ、しばらく決勝はそのパターンから外れてましたね。ずっと長いトンネルだった。
羽端:そういえば、そうですね。”今年の可夢偉”というように見ると、ひとつの傾向だけでは、彼は”くくれない”ような。
STG:アブダビでやっと抜け出したときは、なんだかホッとしました。
羽端:うんうん!
◆メルセデス・エンジンが強さを発揮しはじめた!
STG:で、今年の傾向の続きを。
羽端:あ、はい! ここ数戦で見られる”今年後半”らしいことが、このレースでも明らかになって、それは中団グループの中で、フォース・インディアが大きく台頭したこと。このチームはすでに、メルセデス、ルノー、ザウバー、トロロッソと互角、あるいはそれ以上の闘いを行なえるようになっていて、このレースでは、それがさらに目立った。
STG:2戦くらい前から、メルセデス・エンジンの強さを発揮するようになっていますね。
羽端:なるほど、ひとつのカギはエンジンなんですね。
STG:なので、ザウバーの目の上のタンコブになっちゃっている。シリーズポイントでも逆転された。
羽端:とはいえ、もちろんレースなので、予定通りには行かないこともある。その最たるものが、セブのリタイアだった。何と一周目、それも走り出してすぐの二つ目のコーナーで、彼のリヤ・タイヤがレースの続行を拒否!
STG:最初は、何が起こったかと思いました。
羽端:……ですよね。セブも単独スピンをすることがあるんだなあ!なんて思ってしまいました。そしたらタイヤでしたね。でも、そのコーナーに至るまでのセブのスタートのよさと、そこからすぐに2位以下を離していく迫力は、これまたとても”2011年的”な光景でした。そのときは、うーん、強くなったのう、セブ君よ!と思ったんですが、その直後に──。
STG:ですね。ところが。まるで神様が、”そう簡単には抜け出せないよ”と言っているみたいな(笑)。
◆セブがコースに残っていても、ルイス/マクラーレンが勝った!?
羽端:こうしてセブが抜けてしまうと、
レースはいきなり、誰が勝つのかわからない!ということになった。さっきの”トップ・ファイブ”というのは、たぶん正確ではなくて、”トップ・フォー”が四人いて、そしてその前にもうひとり、やや離れてセブがいる。今年はこういうマップだったということが、セブの脱落で、逆に見えてくることになった
STG:いや、私はほぼハミルトンと思ってました。
羽端:あ、そうでしたか、なるほど〜。
STG:予選までの走りを見る限り、マクラーレンのフロントの入り方のスムーズさは抜群だった。
羽端:ほほう。でも、セブが予選では前に出ましたよね?
STG:ハミルトンは、Q2ほど速く走れなかったと言ってます。事実、Q2の方が速かった。順調に行っていればハミルトンがポール。
羽端:ふーん、でも、それを聞くと逆に、セブ君も今年は逞しくなったんだと思ったりしますが。
STG:で、タイヤがバーストしなくても、マクラーレンが食いついて行って、DRS(可変リヤウイング)で逆転された、という読みでした。少なくとも、二人のバトルは壮絶になったはずで、それが見られなかったのはとっても残念!
羽端:おお、その「if」はおもしろそうですね。セブ vs ルイス! そして、今回でいえば、同じマクラーレンで、ルイスはジェンソンに先着した。”今年的”では、ジェンソンの方が上位みたいだったけど、このレースでは、ルイスがそれをひっくり返した。
STG:やっと本来の速さを出せたかな、と。
羽端:私の場合は、セブが”消えた”途端に、誰が勝つかわからなくなったというのはおもしろかったし、今年のグランプリ・シーンにおけるセブの存在の大きさを、あらためて実感しました、はい!(笑)
STG:確かに、いなくなっちゃったのは残念だったけれど、これもレース、ってことで(笑)。
羽端:ところで可夢偉も、たぶん、こういうときに”手応え”という言葉を使うんだろうけど、それを十分に感じられるようなレースが、今回はできたんじゃないかと思います
STG:ですね。長いトンネルを抜けた(笑)。
羽端:レース後のコメントが、いい意味で”軽口”になってましたよね。おそらく、喋りたいことがいっぱいあったんだと思いますよ。
STG:成績が悪い時は、会見の”ノリ”のもうひとつ。本人も何度か、”悪い思い出は速く忘れたい。以上”と冗談で言ったりしてますね。
羽端:ラス前のレースが、こういう風にいい感じで終われた。ブラジルでも、気持ちよく、彼自身が納得の行くようなレースをしてほしいですね。
STG:賛成! 大切なのは、F1GPは、オリンピックなどのように、そこで終わりではなく、”連続している”というところですね。最終戦をいい形で終えて、来年につなげたい。これはチャンピオンのフェッテルも当然そう思っているけれど、むしろ、ルーザーたちの方が強く思っている気がします。
羽端:なるほど、ルーザーたちが、ね。可夢偉はどうなんだろう?
STG:彼の周辺だけ、シリーズ順位がかかってますから。ここだけですからね、シーズン争いが終わっていないのは。
羽端:ははあ、消化試合に非ずということですね、ザウバーは。
STG:そう思えば、時差12時間も乗り越えられる!
羽端:そこに行ったか!(笑)
STG:です(笑)。楽しみましょう!