ホットライン2011 round8 ヨーロッパGP 1/2
クルマ好きのエディター・羽端恭一さんとSTINGER編集長が、大混乱のヨーロッパGPの裏舞台をズバリ診断する。
◆いま、F1の”盛り上がり”は可夢偉の肩にかかっている?
羽端恭一(以下羽端):バレンシア、ですけど・・・。
[STINGER]編集長山口正己(以下STG):今回ばかりは、すっぽ抜けたというか(笑)。
羽端:やっぱり、アレですね、可夢偉に精彩がないと、レース、盛り上がらないですね、率直に言って。
STG:正直(笑)。これ、日本人だけじゃないかも、って気がしています。
羽端:おお! そうだとすると、さらに凄いことだけど、今回のレースは若干”盛下がって”しまった。その原因になるくらいに、今年の可夢偉はずっと、F1シーンを盛り上げ続けていた。
STG:しかし、すっかり彼に寄り掛かっちゃうのもなんだな、って気がしますけど、先週末は、アメリカのインディカーもあって、なんと佐藤琢磨が日本人初のポール・ポジションを取っちゃったりして、勢い込んでテレビ観戦したら、終盤に入ってトップに立てるチャンスに頑張りすぎてドッカン(泣)。そういうイメージを引きずっていたので、余計拍子抜けしたというか。
羽端:琢磨がポールを取ったというニュースが入ってきて、気になったのは、どんなコースで?ということ。そしたら、ロードとか市街地ではなくて、何とショートオーバル! これには、ちょっと感激しました。何というか、日本人ドライバーが一番慣れていないと思われるコース形状、そこでのポール奪取って、琢磨がアメリカのレースを、ようやく、ほんとに手中にしたという気がしたんですね。結果は出ませんでしたから、お祝いも半分にしておきますけど。
STG:しかし、贔屓の引き倒しにならないように応援したいと思いますね。ちなみに、武藤英紀は、ここで3位と2位になってますから。
◆ファースト・ドライバーとしての「責任」
羽端:バレンシアに話を戻すと、まあ一戦くらい、たまにこういうレースがあるのも、しょうがないというか、むしろ当然というか。
STG:そうそう。ザウバーのポテンシャルからして、これまでが驚きだった。
羽端:そうですよね。あと、今回ひとつ気づいたことがあって──。それは、F1って、ドライバーにとっても、クルマつくりの競争なんだなっていうこと。
STG:え、今頃?(笑)。
羽端:いや、あらためてね!(笑)
STG:可夢偉 は、”GP2までは、クルマに合わせて走るけれど、F1は作っていく”とトヨタのテスト・ドライバー時代から言ってますからね。
羽端:うん、でも(トヨタの)サード・ドライバー時代と違って、いまの可夢偉は、大きな責任とともに、クルマを「つくる」ということをやってるでしょ。そこに、もう一度、気づいたということ。今回、可夢偉が盛んに”ハマッてる”という言い方をしていたけど、これってホンヤクすると、あるいは別の”可夢偉語”で言い換えると、クルマが「まとまってない」ということだと思う。
STG:ですね。
羽端:クルマが「遅い」というのは、いまに始まったことじゃないし、可夢偉だけの責任ではないかもしれない。トップチームに直線で抜かれるというクルマが、現在の可夢偉にとってのウェポンなわけで、そのことについては、可夢偉は文句言ってないし、ガッカリもしてない。
STG:いや、それなりにガッカリしているけれど、それを表面に出したり言い訳に使ったりしないってことだと思いますよ。
羽端:まあね! ただ、「まとまってない」という点に関しては、可夢偉は、かなりの責任を感じているはず。そのことに気づいて、あらためて感心したということです。
……でね、トップチームが「100」だとしたら、仮にフルに能力を発揮しても「75」しかないというのが、可夢偉のザウバーであるかもしれない。でも、その「75」の範囲内については、可夢偉はすべて把握していて、クルマについても、どうすればこうなるということがわかっている。その「75」をフルに、また臨機応変に、かつ自由に操ることができれば、「100」を超すことはできないまでも、「100」のすぐ下にまでは行ける。これが、今年の可夢偉のレースだったと思う。
STG:“クルマを作っていく”という意味では75は75で、それ以上は無理です。あとは、作戦や駆け引きの巧さでどこまで伸ばすか。可夢偉はこの能力が非常に高いと思います。
羽端:入賞、つまりポイント獲得って10位まででしょ。トップスリー×2で6位までが占められるとしても、入賞にはまだ、4台分の余裕がある! こうやって、可夢偉は今年、闘ってきた。フフ、得意のモーソーですけどね(笑)。
STG:その通りだと思います。
羽端:だから、明日のレースで入賞できますか?と聞かれると、「それは大丈夫でしょう!」と答えるのが常だった。でも、今回のバレンシアだけは、そういう風には答えませんでしたよね。
STG:“入賞? ないでしょう!”と答えてますね。
羽端:彼がいう「ハマッてる」というのも、勝手に、モーソー的に(笑)ホンヤクするとね。クルマのセッティングって、おそらく、経験値とイマジネーションの組み合わせだと思うんだけど、こうすればこうなる、あるいは、こうなるだろう、ということで、いろいろとやって行く。そして、やっぱりそうだっ
た!ということで、クルマを「まとめて」行くんだろうと思います。でも、それがことごとく”ハズれる”というか裏切られるというか、そういう展望のない状態になっているので、それを「ハマッてる」と言ってるのではないか?
STG:ですね。
羽端:さらに言うなら、そういうドライバー側からの要望や疑問に対して、それに応えられるだけの蓄積とノウハウが、いまの彼のチームにはない・・・。
STG:ですね。ない、と言いきってしまうのはちょっとかわいそうだけれど、トップ5(レッドブル、マクラーレン、フェラーリ、メルセデス、ルノー)より低いのは確か。それから、状況をややこしくしているのは、今年のタイヤが”全然読めない”こと。今回のヨーロッパGPに、新たなハード・コンパウンドが投入されて、ますます混沌としちゃった。
羽端:それを含めて、もともとが「75」しかなく、そして、その「75」のパフォーマンスをフルに発揮することもできないでいる。これが、小林可夢偉”バレンシアの嘆き”のナカミだったと見てます。
STG:ですね。
ホットライン2011 round8 ヨーロッパGP 2/2に続く。