アロンソは史上最強?
今週末のアブダビGPで“二度目の”引退を決めているフェリペ・マッサが、「アロンソが自分の知っているドライバーの中でベストだ」、とコメントしたのを受け、SNSが盛り上がっている。
マッサは、フェルナンド・アロンソ、ミハエル・シューマッハ、ルイス・ハミルトンを3強に上げ、続いて、セバスチャン・フェッテル、マックス・フェルスタッペンを“次点”と判定、大方の見方として賛同できるランキングだが、中でもフェルナンド・アロンソを最強と断言した。
マッサは、2011年から3年間をアロンソとともにフェラーリで過ごし、直近でつぶさにアロンソを観察している。同じく、シューマッハとは、2006年に1年だけだがフェラーリで(レギュラードライバーとして)同じ釜の飯を食っている。2007年から3年間、キミ・ライコネンのチームメイトとしてフェラーリで活躍したが、キミ・ライコネンは、トップランクに入れていない。
マッサの評価に対して、“ブラジルGPでマクラーレン・ホンダのアロンソとやりあって勝っているからね”という皮肉な見方もあったが、ならば、ミハエル・シューマッハは別格として、ルイス・ハミルトンとは、2008年にタイトルを争って、ギリギリで破れているから、立てておかないとよろしくない、という判断? しかし、ならばライコネンも入ってもいいような。
ちなみに、ミハエル・シューマッハとフェルナンド・アロンソの二人と、ブリヂストンとフェラーリの時代を通じてエンジニアとして闘いを共にしたセルモ・インギングの浜島裕英総監督は、シューマッハとアロンソの共通点を「瞬間的にグランプリ・モードに持って行ける能力」とコメントしたことがある。
「星野一義さん(現星野インパル監督)と、1980年代にF2のタイヤ開発を行ないました。星野さんの素晴らしさは、様子見とかなくていきなり全開で走ることができるところです。開発テストの時は時間がいくらあっても足らないので、“まずはウォームアップをして”なんて、できればやらずにいきなりプログラムを消化したいのですが、星野さんは、テストのプログラムをざっと説明しておくと、とにかくいきなり全開走行を始めました。そしてさらに素晴しいのは、戻ってくると、こちらの用意した質問を先回りして要点を伝えてくれたことです」
「実は、ブリヂストンの一人としてミハエル・シューマッハと一緒に仕事をするようになって、星野さんとシューマッハがまったく同じだと気付いたのです。いきなり全開、つまり、“グランプリモード”と言っていますが、そこへの持って行き方が二人は別格でした」
そして浜島エンジニアは、2012年から2013年をアロンソ+マッサ、2014年をマッサ+ライコネンとフェラーリで過ごした。
「星野さんとマイケル(シューマッハを浜島エンジニアはこう呼ぶ)が凄いと思っていましたが、もしかするとアロンソはもっと上かも」
これがポロッとつぶやいた浜島エンジニアのアロンソ評だ。
「マッサですか? 小犬みたいにかわいい奴ですが、歯車がかみ合ったときは、シューマッハも舌を巻く速さを持っています」
星野監督とシューマッハとアロンソの共通点がもうひとつ。レースの現場では、非常にとっつきにくく、近寄りがたい。ある意味、他を寄せつけない排他的な“いやな奴”だが、レースモードが外れたとき、つまりサーキットの外では、意外なほどいい人、というところだ。
星野監督がこんなことを言ったことがある。
「引退したあとで、“あいつはいい奴だったけど遅かった”と言われるのと、“あいつはいやな奴だったけど速かった”って言われるの、どっちがいいかな?」
[STINGER]山口正己
写真素材:Ferrari S.p.A / FERRARI MEDIA、WILLIAMS F1 TEAM / LAT Photographic