新しい?マクラーレン、『Grand Prix Driver』
マクラーレンのF1活動を追ったドキュメンタリー『Grand Prix Driver』がアマゾン・プライム・ビデオで配給されている。
2017年シーズン、ロン・デニスからマンスール・オジェーに主権が移譲し、オレンジと黒のカラーリングに“生まれ変わった”マクラーレンを描いた、二つの意味で面白い作品だ。
俳優のマイケル・ダグラスがナレーションを買って出ている。4編に別れ、制作はイギリスのBBCが担当している。
まず、F1、中でも、“テクノージーセンター”という、香港空港も手がけたノーマン・フォスターが設計した巨大なマクラーレン・ファクトリーや、その内部で行なわれている作業が、F1のクォリティを遺憾なく伝えている。
同時に、主に、作品の設定になっている2017年にチーム入りした新人ストフェル・ヴァンドーンのトレーニングの様子が克明に伝えられ、F1というスポーツの本質と厳しさが実によく表現されている。
一方で、成績不振をホンダのせいにして、自分たちの責任ではないと女々しく繰り返すのは、ロン・デニス時代には見られないストーリーだった。二つの意味で面白いと言った二つ目が、この視点だ。
いわゆる、ビジネスライクに事を進めれば物事が成功すると、マンスール・オジェーから代表を言い渡されているザック・ブラウン・チーム代表は思っているのかもしれない。ブラウン代表は、マーケティングのプロであり、レースに造詣が深いと伝えられているが、ロン・デニスに比べると、モーターレーシングの神髄を充分に理解していないことが作品の中から伝わってくる。
そもそも、美しくも、かっこよくもない2017年マクラーレン・ホンダのカラーリングを最初にみたとき、これまでのマクラーレンが築き上げてきたイメージが崩れたような気分になったが、動画は、変化してしまったマクラーレンの歴史的記録として残されることになったとも言ってもいいかもしれない。
作品の中に何度かザック・ブラウンも登場するが、仮に、先代のロン・デニスであれば、登場したとしても違う形になったに違いない。ブラウンというチーム代表が、レースの現場やマクラーレン・テクノロジー・センターの中で、ロン・デニスのようにカリスマ性を持ってスタッフたちから受け止められているようには見えず、ブラウンは、優秀なビジネスマンではあっても、レーシングな人物ではないことが見え隠れした。
マクラーレンは、1980年代序盤にロン・デニスが引き継いでから、F1活動を通じてブランド構築を行なってきた。それを成功させた戦略のひとつとして、スポンサーと言わずにパートナーと呼ぶ考え方があった。単に金を出すだけでなく、見返りも含め、運命共同体としての付き合いを現す呼び方だった。ザク・ブラウンは、それを捨て去って、スポンサーというどこにでもある形で、資金集めを行なう姿勢に戻した、と作品は言っている。
F1やレースをよく知らないでこの4編を見れば、マクラーレンがホンダと別れてルノーと組む今年は、成績が向上するように見えるかもしれない。しかし、すでにパートナーとなっている企業がこの作品をみたら、成績不振をいつ自分たちのせいにされるかわからないと心配になるのではないかと老婆心が働いた。
確かにホンダのパワーユニットはトラブルが多かったが、仮に100%責任があったとしても、別れた元嫁の悪口を言うことが共感を呼ぶとはとうてい思えない。特に4編目に、イギリス人を中心としたジャーナリストの鼎談で、ホンダの悪口を言う下りは、スポンサーに対して言い訳をならべているようにしか見えなかった。BBCが制作し、ザック・ブラウンは一切口出ししていないと言われているが、不振の過去を振り返るのではなく、未来に向けて前進するビジョンを語ってこそレーシングであることを考えると、その方向で口出しすべきだったと思える。
この作品を見て、改めてF1GPという世界のクォリティは認識できたが、同時に、マクラーレンがホンダと別れてルノーと組む2018年がある意味楽しみになった。
[STINGER]山口正己
photo by McLaren / STINGER