シリーズ・バーチャルセーフティ・カー :その14・アロンソのデビュー・ウィンで想うこと
うんちくがF1を楽しくする?!
ベルギーのスパ-フランコルシャンで行なわれたWECの開幕戦で、フェルナンド・アロンソのトヨタTS050 HYBRIDが優勝しました。アロンソはWEC初体験ですから、“デビュー・ウィン”で念願の世界三大レースの、モナコ、インディ500、ルマン24時間のトリプルクラウンに一歩近づき、いくつかの話題を呼んでいます。
◆アロンソがホンダと別れたかった理由
アロンソは、所属するマクラーレンにエンジンを供給していたホンダと決別に強い意見を持っていたと言われます。非力だったホンダのパワーユニットが上向き始めた2017年夏以降にマクラーレンが決別を決めます。2018年はそれなり以上の活躍が期待できることが明確になった時期の決定は不思議でしたが、もし、ホンダとの契約が継続されていたら、トヨタはアロンソと契約したかを考えると、即座に“Yes!!”と言えなかったかもしれません。
◆トヨタがルマンに勝つ保証
ルマン24時間を含む世界三大レースは、それぞれ性格が異なります。モナコは、“世界一高貴な”、インディ500は“世界一勝つのが難しい”、そしてルマン24時間は、“世界一過酷な”レースです。これまで、トヨタのケースだけをみても、ルマンの過酷さが理解できます。
確かに、今年、トヨタTS050 HYBRIDが優勝する可能性は高い。けれど、24時間レースは何があるかわからない。それに主催者は、ハイブリッドのトヨタTS050 HYBRIDと、ノンハイブリッドとの格差を無くすためにレギュレーションを変更するはずで、特にルマン・ウィナーのアンドレ・ロッテラー擁するリベリオンがライバルとして注目されることになりそうです。
そして、最大のライバルが、もう1台のトヨタTS050 HYBRIDであることですが、トヨタ陣営は、アロンソを勝たせるために指示を出すのでしょうか。そして、7号車のトヨタTS050 HYBRIDのドライバーたちは、すんなりとそれに従うのでしょうか。
そうした“コントロール”は、モーターレーシングの精神を根底から揺るがすことになりかねません。ファンは、そうしたことが起きないように、レースの流れに注目すべきかもしれません。
◆三冠は取りにいくものか
モナコGP、インディ500、ルマン24時間の世界三大レースに勝ったのは、グラハム・ヒルただ一人ですが、ヒルは結果としてトリプルクラウンを達成しました。そもそも、取りにいって簡単にできるものでもありませんが、フェルナンド・アロンソはそれをやろうとしています。達成すればグラハム・ヒルに次ぐ快挙として讃えられるかもしれません。しかし、快挙は取りにいくものではなく、結果として着いてくるものとも。
ちなみに、アロンソは、モナコGPに2回勝っていますが、それはすでに10年以上前の2006年と2007年。インディ500には一度参加しただけ、ルマン24時間にはまだ出たこともありません。
歴史的にみても、ドライビング能力の高さは群を抜き、36歳にしてますます円熟味を増しているフェルナンド・アロンソのトリプルクラウン達成の難易度は、限りなく高いといえそうです。もちろん、目標は人それぞれですが、F1に集中して、3度目のワールドチャンピオンを目指す方がいいと思っているファンも少なくないのではないでしょうか。
[STINGER]山口正己
photo by GAZOO RACING