シリーズ・バーチャルセーフティカー :その19・グランプリモード
ドライバーのテンションを現す言葉に“グランプリモード”というのがあります。予選アタック中の集中した状態、といえばいいでしょうか。1976年のニュルブルクリンクで瀕死の重傷を負いながら、4週間で復活してワールドチャンピオンに返り咲いたニキ・ラウダは、「コクピットに座った瞬間に、“パチン”とスイッチが入る」と名言をコメントしていますが、この領域に入るまでの時間が短いほど優れたレーシングドライバーと言われます。
走り始めて数周は、様子をみつつ準備している、というと、あたかも正しいやり方に聞こえますが、星野一義さんの意見は、「そんな暇はない」。F2時代に星野さんとブリヂストンでタイヤ開発を行なった浜島裕英エンジニア(現セルモ・インギング総監督)は、「グランプリモードに入る時間がほぼないといえるところが星野さんの素晴しいところ」と教えてくれました。「テストで様子見は時間の無駄になる。最初からグランプリモードで走れるドライバーなら、効率のいいテストができる」から。「フェラーリでミハエル・シューマッハと開発をしてみて、星野さんと同じレベルで瞬間的にグランプリモードに入れるドライバーと気づきました。予選の一発が強いのは、そのためです」。
アイルトン・セナがF3で初めてマカオ・グランプリを走ったとき、未経験のコースでピットアウトした周の1コーナーでカウンターを当てていたというのは有名な話です。最初からグラプリモードに入っている証拠。
グランプリモードになれないドライバーに対して、ネルソン・ピケは面白ことを言っています。「月曜日までレースがあれば、彼は勝てるかもしれない」。レースは日曜日に終わりです。
[STINGER]山口正己
Photo by Ferrari S.p.A / FERRARI MEDIA