シリーズVSC :その27・アライ・ヘルメットの思想
他愛ないことにこそ、面白さが潜んでいる?!
ホンダ・パワーがトロロッソとのコンビで頑張っていますが、ほかにもF1を支える日本企業が存在します。F1GPと長いつきあいを持つ日本企業として、埼玉県大宮市に本拠地を置くアライ・ヘルメットもそのひとつです。
アライ・ヘルメットは、1985年に、ウィリアムズ・ホンダに乗るケケ・ロズベルグのために本格的なF1活動を始め、以来、30年以上に渡って多くのドライバーに親しまれています。
現在、ヘルメットの素材はカーボンファイバー製ですが、実は、カーボンとアライの間には、いつくかのストーリーがあるのです。
2004年、ヘルメットの規定が突然変更されました。素材がカーボン・ファイバーに限定されたのです。正確には、新たに決まった強度規定をクリアーするためには、カーボンファイバーしか選択肢がなかったのですが、アライ独自の安全に対する考え方から、カーボンを採用していませんでした。カーボンファイバーは高価なため、今でも市販ヘルメットはグラフファイバーやポリカーボネートが使われますが、アライはグラスファイバーにこだわっていました。それは、グラスファバーが、ヘルメットとして最も優れた素材だからです。
カーボンファイバーは、強いけれど脆い、という特性があり、強い衝撃で割れてしまう。反対に、鉄の箱に豆腐を入れて落下させると、中の豆腐が崩れてしまいます。これに対してグラスファイバーには、カーボンファイバーにない、“破壊しながら衝撃を吸収する”という優れた性能があるのです。これがアライがグラスファイバーを最も優れた素材としているところです。
しかし、単純な強度だけにこだわってレギュレーションが決まってしまったからには従うしかない。レギュレーション変更が知らされたのがシーズン中で、時間のないギリギリのタイミングだったけれど、アライの技術者は受けて立ち、ごく短時間で試験を通過して、F1ドライバーへの供給を継続したのでした。
もうひとつ、アライは、デザイン以前に、あらゆる方向からの入力を考えたとき、衝撃を回避できる形が「丸」であることに徹底的にこだわり、エアダクトの形状や、バイザーにも細心の注意を払っています。
1978年のイギリスF3で宙を舞うクラッシュを経験した中嶋悟さんは、その事故以来、命を護ってくれたアライ以外はかぶらないことに決めたそうですが、アライの技術と安全へのこだわりは、いまでも高く評価され、アライでなければ、というドライバーが数多く存在するのは、そんな理由からなのです。
※連載回数に誤りがありましたので、修正して再投稿しました。
[STINGER]山口正己
Photo by Aston Martin Red Bull Racing