シリーズVSC :その30・ジム・クラークの透視能力
1960年代のF1GPで、天然自然の天才と言われた天才ジム・クラークに、こんな逸話あります。
1967年のF2のアクシデントで惜しまれながら天に召された1963年と1965年のチャンピオン。73戦25勝は、ミハエル・シューマッハの29.7%もルイス・ハミルトンの29.9%も及ばない勝率を誇った天才でした。1963年には10戦7勝と圧倒的な天才ぶりでした。
あるレースのブラインドコーナーで大きな事故が起きた。直後に事故現場のコーナーに差しかかったクラーク。危険を知らせるイエローフラッグも提示される前のことで、周囲は“間に合わない!!”と思ったけれど、クラークは見えないはずのコーナー手前で減速して事なきを得、「透視能力があるのか」という記者の質問に、「観客が(事故現場へ向かって)走っているのが見えた」と一言。天才は目のつけどころが違う、という話です。
これも、優れたレーサーの頭脳の話になりますが、ある種の慣れとも。“慣れ”がとっさに反映できるのは、やはり知能レベルなのだけれど、たとえば、街中の運転でも、こんなことが想定できます。
前のクルマが急ブレーキを踏んだので、反射的にブレーキを踏む。初心者のうちは、そこまでで精一杯。しかし、経験を積むと、ブレーキを踏んで追突を免れた次の瞬間に、バックミラーを観るはずです。後ろのクルマに追突されないかを心配しているから。これもある意味、先を読んだ行動です。
レーシングスピードで走りながらジム・クラークは、その“予知”が完璧にできた。やはり天才と感じさせるわけです。
同じ才能を感じさせる主なドライバーは、クラーク以後のF1ドライバーでいうと、ジャッキー・スチュワート、エマーソン・フィティパルディ、ニキ・ラウダ、ジル・ヴィルヌーブ、アイルトン・セナ、ネルソン・ピケ、ナイジェル・マンセル、ミハエル・シューマッハなどなど枚挙に暇がありませんが、現在のF1ドライバーで、こういう才能の持ち主として上げられるのは、さて、誰でしょうか。
[STINGER]山口正己
Photos by INDYCAR