1990年以来のF1開催のポールリカール⑤フランスの美意識
1990年以来28年ぶりにF1のフランスGPの舞台として復帰するポールリカール・サーキットは、以来テストコースとして存続していた。2001年には、トヨタのF1活動の前線基地としての役目を担い、最近では、WECやF1のオフシーズンテストも行なってきた。
元々は、2km近い凄まじく長いストレートを持つ5.81kmのコースだったが、1986年にブラバムBT55のテストで、エリオ・デ・アンジェリスがそのストレートのアクシデントで亡くなり、以後のレースは、ストレートを半分だけ使う3kmほどのショートコースで行なわれていたが、今回のフランスGPのコース全長は5.809km、ストレートは中間地点にシケインが設けられ、ほぼ当初の距離に戻っている。
トヨタがF1の先行開発として使うに当たって、2002年に現在のレーシング・サーキットの名工といわれるヘルマン・ティルケが、テストコースとして、観客席を取っ払う抜本的な改修を行なった。
テストコースとしてスターとした機会に、サーキットを巨大なキャンパスに見立てて、ランオフエリアの縞模様を進化させ、大きな特徴となったが、そもそもフランスは、モーターレーシングの認知度が高く、その歴史の深さは、こうした遊び心に現れる。
フランスの美的感覚は、音楽でも表現される。マニクールに移った後のフランスGPを取材したスポーツライターであり、オペラ評論家でもある玉木正之さんは、金曜日、土曜日、日曜日と進むごとに、会場に流れるBGMが変化したことに感心したと、新聞のコラムに書いた。闘いに向けて機運が高まることを認識した演出が行なわれていたということだ。
美しい光景と素晴しい天候、小高い丘の上の開放的な環境のポールリカール・サーキットは、観客はもちろん、ドライバーやチーム関係者に特別なシンパシーを与え、今年も素晴しいレースが期待されている。
[STINGER]山口正己
photo by GAZOO RACING