1-2-3-4独占—-イギリスGPの記録と記憶
1987年に、鈴鹿サーキットで10年ぶりの日本GPが行なわれ、中嶋悟がF1にデビューした年だが、7月12日の第7戦イギリスGPは、記念すべきレースになった。
最強エンジンのホンダ・ターボを搭載するキヤノン・カラーのウィリアムズ・ホンダと、キャメル・イエローのロータス・ホンダに、ナイジェル・マンセル、ネルソン・ピケ、アイルトン・セナ、そして中嶋悟の4人が、1-2-3-4でフィニッシュ。ホンダの青山本社には、大きな垂れ幕が掲げられた。
ちなみに、この年、『F1地上の夢』で新田次郎文学賞、1994年に『帰郷』で第111回直木賞を受賞することになる作家の海老沢泰久氏がF1GPの取材を行なっていたが、『F1地上の夢』の中で、中嶋悟の燃料を桜井淑敏総監督が、「心配ない」とする場面のことについて、読者から「わからない」と指摘を受けたと回想した。
通常の競争では、たとえばマラソンであれば42.195kmを走りきって初めて完走扱いになるが、レースには“周回遅れ”という概念がある。周回遅れなら走行距離が少なく、だから燃料が間に合うとの解釈がすぐにできるが、一般的には理解されなかった、との反省のコメントだった。
海老沢さんは、「外野のつもりだったけれど、すっかり身内になってしまって油断した」と仰っていたが、こんなエピソードも生むホンダ・ターボの1-2-3-4だった。
[STINGER]山口正己
photo by Honda