メルセデスの余裕とフェラーリの不安
メルセデスのトト・ウルフ代表は、ルイス・ハミルトンがシンガポールGPの予選で観た見事なドライビングを「これまで見たことのない最高のラップだ。それは歴史に記されるラップだ」とformula1.comにコメントした。
2018F1GP第15戦がマリナベイ・サーキットで始まった金曜日、いや、土曜日のフリー走行3まで、メルセデスにとって鬼門とされるこのサーキットで、好調なタイムを記録するフェラーリの優位を誰も疑わなかった。
リカルド+レッドブルが最速だったフリー走行1でハミルトン+メルセデスは6番手、フリー走行2では、1分38秒699のライコネンと僅差の1分38秒710でライコネン+フェラーリに次ぐ2番手にいたが、フリー走行3では、フェッテル+フェラーリに大差をつけられていた。
◆フリー走行3
1位 フェッテル+フェラーリ 1分38秒054
2位 ライコネン+フェラーリ 1分38秒416(+0.362)
3位 ハミルトン+メルセデス 1分38秒558(+0.504)
4位 ボッタス+メルセデス 1分38秒603(+0.549)
ちなみに、2017年にフェッテル+フェラーリが記録したポールポジションは、1分39秒491であり、それを1秒以上短縮したフェッテル+フェラーリの速さが際立っていた。
予選が始まっても、リカルド+レッドブルが1分38秒153を記録したQ1で、ボッタス12番手、ハミルトン14番手と、通過するだけ、Q2でも、ライコネン+フェラーリの1分37秒194に対して、ハミルトン+メルセデスは、1分37秒344。フェラーリに歯が立たないように見えていた。
ところが、Q3になった瞬間に、ハミルトン+メルセデスが突然輝いた。一発目のアタックで、ハミルトンが記録したタイムは、1分36秒015。いきなり自己ベストを1秒以上縮め、2番手のフェルスタッペン+レッドブルに0.3秒、3番手のフェッテル+フェラーリに0.6秒もの大差をつけるスーパーラップ。ウルフの称賛は大げさではなかった。
この差は、フェラーリ陣営に少なくないショックを与えたに違いない。レースに向けて、テンションアップを強いられたフェラーリの冷静さを、ここで奪い取ったといえる驚異のラップだった。
要するに、ハミルトン+メルセデスは、金曜日の段階から、レースを始めており、的確にフェラーリを混乱させる余裕があった、ということだ。それに翻弄され、ハミルトンとタイトルを争うセバスチャン・フェッテルのタイヤ交換を、ハミルトンより先に行なう失策を行なってしまった。
フェッテルは、リリースの中で、「チームの作戦が間違っていたとは思わない」とコメントしているが、後付けの結果論だが、ハミルトンの前の15周目のピットインは間違いだった。ピットアウトしたところがペレス+フォースインディア の直後で、続いてピットインしたハミルトンに対して、ペレスの後ろのスローペースの2周が明暗を分けた。
ペレスにひっかかっている間に、ハミルトン+メルセデスだけでなく、せっかくスタート直後にパスしていたフェルスタッペン+レッドブルにもやられる件かになった。18周目にピットインしたフェルスタッペン+レッドブルは、ピット出口でフェッテル+フェラーリの鼻先をかすめてコースに戻り、そこでフェッテル+フェラーリの2018シンガポールGPは終わった。ピットインのタイミングを読めていれば、フェルスタッペン+レッドブルに交わされずに済んだのだ。
ルイス・ハミルトンは、この勝利でシリーズ2位のセバスチャン・フェッテルに40点の差をつけた。この流れの中で、残り6戦。フェッテルがポイントを逆転するのは至難の業と言っていい。しかし、ルイス・ハミルトンは、「40点差は、ないのと同じ」とコメントし、この余裕がさらにフェラーリを慌てさせているかもしれない。
[STINGER]大和 空/Sora Yamato
Photo by MERCEDES