エンジニアのステラが語るアロンソの能力
2012年にフェルナンド・アロンソがフェラーリ入りしてから、レースエンジニアとしてアロンソとコンビを組んできたアンドレ・ステラ・エンジニアは、アロンソがいかに優れているかをBBCに語った。
「F1の運転は、バイオリンを弾くのと同じです」とステラ。どちらも、素人とプロの間には大きなちがいがあるのは当然だが、これほどF1ドライバーの技量をうまく捉えた表現はないかもしれない。バイオリニストとして、アロンソは卓越している、とステラは言う。
ミハエル・シューマッハとの比較も面白い。ステラは、アロンソの前にシューマッハのエンジニアとして付き合ってきた。
「シューマッハは限界を越え、アロンソは下から限界に近づく」とステラは表現した。オーバーステアの傾向を好んだシューマッハのリヤタイヤのコントロール能力は筆舌に尽くしがたいハイレベルであるとしながら、「それがリスクとなることもある」と言う。限界を越えてしまうことをどうやってシューマッハに伝えるか苦労したのだという。
しかし、アロンソの場合、そうした心配が一切なかった。ドライバーの能力を、円グラフで表現すると、アロンソはほぼ真円になり、シューマッハは星型になるという。シューマッハは、人間離れして極めて鋭い力を持っているけれど、弱点もある、ということだ。ステラはアロンソの方が上と評価している。
さらにアロンソは、限界を越えない範囲を守りながらもズバ抜けた走りもできた。ステラが最も印象的なレースとして挙げたのは2012年、フェラーリに初めて乗ったとしのドイツGPの雨の予選だった。レッドブルが圧倒的な強さを見せていたが、フェッテルタスレッドブルも、アロンソの集中した一発には歯が立たなかった。
フェラーリ時代にアロンソの間近にいた浜島裕英エンジニアは、ブリヂストン時代にかいま見たシューマッハの凄さを、「慣熟走行がなく瞬間的にフルテンションのグランプリモードの走りができるし、フィードバックが非常に的確」と絶賛していたが、アロンソとつきあい始めて、「アロンソの方が上かもしれない」とコメントした。
アロンソは、マシンの情況を的確に感知する能力に長けていたが、それは周辺情況の認識力も高いことにも通じる。F1に無理してしがみつくのではなく、インディカーに向かうのは、単にトリプルクラウンのためというだけでなく、無理をしない姿勢の成せる技なのかもしれない。
[STINGER]山口正己