それでもメルセデスが強い?!
合同テスト最終日に、フェッテル+フェラーリはハミルトン+メルセデスに1000分の3秒差でトップを護った。フェラーリが最速だぞ、というのが8日間のテストの最も正当な評価だろう。メルセデスW10の操縦性についてボッタスが、「あるコーナーではいいが、別のコーナーでは完璧ではない」というニュアンスのボヤキ(?)もあったから、さらに説得力が高くなる。
しかし、メルセデスにはまだマージンがあるのかもしれない。メルセデスの不気味さがセッション開始のコースインの進め方に隠れていた。
テストでも本番でも、セッション開始のグリーンランプが点灯すると、まずは軽く1周を流してピットに戻るのが定番。GP本番でも、過去のデータに基づいてサスペンションなどをセットしてコースに乗り込むが、例えば気温や路面状況など、データでカバーしきれないものもあることから、まずはガレージであらかじめセットしおいた“イニシャルセット”が正しいかどうかを最終的な現場合せするために1周走り、ピットに戻ってデータを見直し、不具合があれば修正する工程をルーティンとして済ませ、そこで初めて本格的な走行を開始する。
昔で言えば、ホイールナットの増し締めなどがその作業のひとつだった。現在は、材料の熱膨張などを含め、徹底してデータ管理ができるから、ナットの増し締めの必要はなくなっているが、マシン全体となると、今でも確認が必要、というのが常識的な考え方だ。
しかし、ミハエル・シューマッハがフェラーリ時代の開幕戦で、驚くべきことが起きた。ピットを出たシューマッハは、ピットに戻らずにそのまま連続走行に入ったのだ。その年のフェラーリは、シューマッハの腕前もあって圧倒的に強かった。要するに、マシンが“完成していた”のだ。
メルセデスが、同じことをテスト最終日に実行した。ハミルトンだけでなく、ボッタスも、ピットを出るといきなり連続走行に入って、真っ先にモニターにタイムを載せた。
ライバルチームにしてみれば、こういう姿を見るのは気分のいいものではない。いや、だからこそメルセデス陣営は、“いきなり連続周回”を行なったとも考えられる。簡単に言えば、マシンの完成度が極めて高い、ということをライバルに伝え、焦りを誘ッたわけだ。
これができるということは、基本セッティングであるイニシャルセットの誤差がない、ということになる。同じコースを何度も続けて走り、天候の変化もない今回の合同テストのような状況では、ある意味驚くことではないかもしないが、相手はF1マシンという繊細な機械。1周の確認をしてピットに戻ってから本格走行を始める習わしに従ってプログラムを続けていた他のチームは、メルセデスの不気味さを感じずにいられなかったに違いない。
[STINGER]山口正己
photo by MERCEDES