慌てる必要がなかったフェッテルと、慌てないルクレール
バーレーンGPは、フェラーリの二人の明暗をくっきりと映し出すレースだった。
バーレーンGPで逆転優勝を決めたレース後、コクピットを降りたルイス・ハミルトンは、まっすぐにルクレールの元を訪れて労を労った。「今日はシャルルの日だった。ボクたちラッキーだった」。
ハミルトンの言う通りの展開だった。終盤、タイヤの作戦をピタリと当てたメルセデスのハミルトンが、フェッテル+フェラーリをパスしたが、その瞬間、フェッテル+フェラーリは何を焦ったか、コーナー立ち上がりで不用意にアクセルオンしてスピンを喫した。
スタートでトップに立ったものの、5周目にルクレールに抜き返されていた。ルイス・ハミルトンにも抜かれて慌てたセバスチャン・フェッテル。去年のイタリアGPでも似たような場面があった。フェッテル+フェラーリは、スタート直後に、二度に渡ってハミルトン+メルセデスと接触、2度目の接触でスピンして最後尾に落ちた。最後尾からジリジリと追い上げて4位は見事だったが、スピンしなくていい場面だった。
ミハエル・シューマッハも全盛時代に、リズムが狂うとF1ドライバーらしからぬミスを何度か犯しているが、同じドイツ人のセバスチャン・フェッテルも、似たような傾向がある。リズムを外したときの心理状態のコントロール。これが今後の課題だ。
これに対して、その部分の精神面が非の打ち所がなのがシャルル・ルクレールだ。今回も、確実に勝てるレースを、パワーユニットのトラブルでフイにしたが、チーム無線でそうなったことを知ったときに“アンビリーバブル!!”とチームつぶやくことはあっても、決して怒鳴ったりしなかった。置かれた状況を認識し、ジタバタしない。
油揚げをさらわれたレース直後のインタビューで“残念でした”と水を向けられたが、「モーターレーシングだからね。こういうことも当然起きる。結果というより、いつも、もっとポテンシャルをどうしたら引き出せるのか考えています」とサラリと言って、初の表彰台の控室でも、ずっと前からそこにいるような落ち着いた風情を見せていた。
どんな場面でも淡々と、「こういうこともある」と受け止める。レーサーとして最も重要な素養であることを証明しているルクレール。セバスチャン・フェッテルとシャルル・ルクレールの差のポジションは、このままでは直ぐに入れ代わりそうだ。
[STINGER]山口正己
photo by FERRARI