クラッシュではなく、軽く触れただけのフェラーリの同士討ち
フェラーリの同士討ち。ブラジルGPの負のスペクタクルは、これだった。71周レースの65周目の大詰めで、フェラーリのセバスチャン・フェッテルとシャルル・ルクレールの先陣争いが加熱した。まず、⑯ルクレールが⑤フェッテルをパス、タイヤが新しい⑯がそのまま差を広げるかと思いきや、⑤がスピードを上げ、サイドbyサイドの末に、左コーナーのターン4に進入した。
61周目にセフティカーが逃げ、トップにいたハミルトン+メルセデスは、くたびれたタイヤで、なんとか逃げきろうと、超スローペースでペースをコントロールしてリスタートのタイミングを謀ったが、フェルスタッペン+レッドブル・ホンダにサクッとパスして、2位ハミルトン+メルセデス、3位アルボン+レッドブル・ホンダを、2台のフェラーリが⑤-⑯の順で追う展開でレースが再開した。
この時2台のフェラーリは、2位アルボン+レッドブル・ホンダのDRS圏内にいた。タイヤが新しい⑯が⑤をパスしたとき、チームオーダーでアルボン+レッドブル・ホンダ攻略の指示が出たと誰もが思った。
アルボン+レッドブル・ホンダは、ハミルトン+メルセデスから2位を奪うべく、DRSで狙いを定めていた。ルーキーのアルボンが、6回のワールドチャンピオンのハミルトンに揺さぶりをかける面白い場面だったのだが、ルーキーは、後方からの攻撃に神経を使わなければならない状況に転じていた。
しかし、⑯を前に出したと思われた⑤がやおらスピードを上げた。66周目の4コーナーアプローチ。左に⑯、右に⑤。触れたのは⑯の右前輪と、⑤の左後輪。当たったというより触れただけだったが、フェラーリが4-5位を消し去るのに充分だった。
⑤フェッテル+フェラーリの左後輪タイヤが千切れ飛び、⑯ルクレール+フェラーリは右前輪サスが破損してタイヤがあらぬ方向を向いてコースオフ。ヘルメットの中で二人が、受け入れられない事態を絶叫する声だけが虚しく響きわたった。
この事態をフェラーリは当然重く診て、イタリアに戻ってから二人に招集をかけた。しかし、反省会でなにか好転することがあるのだろうか。
「次からぶつからないようにしようね」と言って聞く耳があるなら最初から当たりはしない。追突やスピンで接触したなら反省のしようもあるが、二人は闘って、軽く接触しただけだ。二人が絶叫したのは、相手を罵るためではなく、事態そのものを罵倒したかったのだ。マラネロに戻って、事態をみんなで罵っても、何の意味もない。
ただし、招集してミーティングを行なうことで、ひとつだけ効果が期待できる。イタリアメ・ディアの矛先を交わすか、少なくとも和らげること。フェラーリにとっての敵は、メルセデスやレッドブル・ホンダだけではない。
[STINGER]山口正己
photo by FERRARI