大きなタイヤを隠す空力の歴史
メルセデスが、ステアリングの操作でトー角を調整してストレートスピードを伸ばそうとしている、という新システム、メルセデスのテクニカルダイレクターのジェイムス・アリソンは、“我々はDAS(ダス=Dual Axis Steering)と呼んでます”と、メルセデス・チームのツイッターで、“革新的なニューシステム”を自慢げに報告している。
さて、その“DAS(ダス)”の狙いは、ドライバーの操作でトー角を調整し、ストレートでフロントタイヤの抵抗をいかに減らすかだが、F1の空力の歴史は、そのまま、フロントタイヤに当たる空気をいかに効率よく切り裂くかの闘いと言ってもいい。
1960年代中盤までのF1マシンは、いわゆる“葉巻型”と呼ばれた。丸い筒状のボディに4つのタイヤが着いている形だったからだ。
ところが、1960年代中盤に、ダウンフォースという言葉が誕生し、ボディを空気の力で地面に押しつけると、コーナリングスピードが上げられることが発見された。
最初は、アルファロメオのカロル・キティ博士が、ボディ後端をはね上げる“ダックテール(あひるのシッポ)”を考案し、レーシングカーの定番となったが、1966年に、アメリカとカナダを舞台として闘われていた7000㏄のビッグマシンのCAN-AMシリーズに、チャレンジングなマシンを登場させていたチャパラルのドライバー兼エンジニアのジム・ホールが、飛行機の翼をひっくり返しに着けた“ウィング”を採用、アッと言う間に世界中のレーシングシーンがウィングで埋めつくされた。
ウィングは、きれいな空気の流れの中にあるほど効率がいいので、高さ1m以上のウィングが林立するようになったが、ステーが折れるトラブルが頻発、死亡事故も起き、高さ規制が施行された。そこからフロントタイヤの空気抵抗を減らす闘いが始まる。1968年のことだ。
F1マシンの空気抵抗の最大の敵は、大きなフロントタイヤであることが改めてクローズアップされ、まずはタイヤをカバーするような“スポーツカーノーズ”が流行したが、1970年代中盤になると、小径のフロントタイヤを前輪に4つ着けた“6輪車”が登場。その後、F1の規則が“4輪まで”と決められて6輪車は出番を失うが、フロントタイヤに当たる空気をいかに効率よく流すかは、今でもF1デザイナーの優先課題のままなのだ。
トー角を変えてストレートスピードを上げようという考えは、実に単純な考え方だが、今まで誰も実行しなかったか、したとしても陽の目を見ることはなかった。
改めて、FIAがこれをどう受けとめるか、禁止か否かが注目されている。
[STINGER]山口正己
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