F1からロードカーへ–進化するメルセデのエンジン思想
メルセデスAMGが、F1のエンジン・テクノロジーをロードカーに採用し、新しいイノベーションをおこそうとしている。
かつては、F1GPを中心とするテクノロジーが市販車に影響を与えるという流れが普通だった。古くはルマン24時間が、切れないヘッドランプやパンクしないタイヤの進化を実現した。しかし、近代になってその順番は逆転していた。
市販車の技術がF1GPに使われる最たる例がハイブリッド・エンジンだ。ハイブリッドは、日本のホンダやトヨタが世界に先んじて市販車に採用し、そのノウハウがF1GPに使われるようになった。しかし、2020年6月17日、メルセデスAMGが、久々に、F1GPの革新的なテクノロジーを市販車に供与する発表を行なった。
メルセデス-AMG F1が発表したのは、エレクトリット排気ガスターボチャージャー。すでに最終開発段階にあり、将来的に量産モデルで使用されるという。
ギャレット・モーションとの共同開発で生まれたテクノロジーは、低回転域でのパフォーマンスを生み出す小型のターボチャージャーと、ターボの欠点であるターボラグのテーマを抱えた高回転域での大型のターボチャージャーが組み合わされ、メルセデスのフォーミュラ1パワーユニットのエネルギー回収システム、特にモータージェネレーターのヒート・ユニット(MGU-H)で培ったノウハウが市販車に活用される。
新しいエレクトリック排気ガスターボチャージャーは、排気側のタービンホイールと外気側のコンプレッサーホイールの間のチャージャーシャフトに小さな電気モーターが組み込まれる。
電子制御の電気モーターは、排気ガスの流れを受ける前にコンプレッサーホイールを駆動。ターボチャージャーの電動化で、アイドルスピードからのレスポンスが大幅に向上し、エンジン回転全範囲にわたってターボラグが解消されるという。
結果、アクセル操作にエンジンの燃焼がより俊敏に反応し、リニアな運転感覚を実現するもので、低回転で高いトルクが生み出され、俊敏性と加速を向上させるという。
これは、ドライビング・プレジャーにも大きく影響する分野で、メルセデスのクルマそのものだけでなく運転に対する思考を如実に現した成果といえ、登場が期待される。
[STINGER]山口正己
photo by MERCEDES