「現場」を母国語で伝える強み — ホンダが可夢偉を「救う」時だ!その3/3
ちょっと視点を変えて、可夢偉をマクラーレンに乗せることで、ホンダにはどんな”トク”があるかを見てみる。
まず、ホンダ・ファンが増える。可夢偉の窮状を「救った」ことがあからさまでも、それを不快に思うような日本のレース・ファンは一人もいない。ホンダへの好感度は確実に上がる。
また、可夢偉はかなりの数の彼個人へのファンを持っているドライバーである。先年、可夢偉が「基金」を求めた際に、万を超える数の人々が自腹を切ったのは記憶に新しい。「可夢偉/マクラーレン」が実現すれば、このコアな人々のホンダを見る目も変わる。ひょっとしたら次期車検時には、いま乗っているクルマからホンダ車に乗り換えてくれるかもしれない。
さらに、人々がホンダというメーカーを新しい目で見るようになる。レース・ファンにはなぜか”事情通”が多いが、だからこそ、可夢偉がマクラーレンに乗ったら感動する。(フトコロの深い会社になったよな、ホンダも)(ホンダは”トヨタ育ち”のドライバーでも乗せるんだ!)(トヨタにできるのか、こんなことが?)
見るべきは、可夢偉がどう”育った”かではない。可夢偉がF1界で何をしたかだ。2012年、ザウバーという明らかに中位グループのクルマに乗って、ドライの鈴鹿で表彰台に上がるというドライバーを、可夢偉のほかに誰か想像できたか? そしていま、ビッグ・チームに所属しリザルトを残している幸福なドライバー以外で、可夢偉ほどに速くて、そして確実なドライバーはいるのか?
そしてもうひとつ、重要なこと。ホンダは、可夢偉を陣営に加えれば、近年F1の「現場感覚」を手に入れられる。もちろんそれは、マクラーレンからも得られるだろうし、データということなら既に膨大な量のものが、ホンダのスーパー・コンピュータに入っているかもしれない。
しかし、F1ソサエティが持つ「空気感」は、いくらコンピュータのキーを叩いても出て来ないのではないか。しかし可夢偉なら、その「空気」を自由な母国語でホンダ側に伝えることができる。……というより、可夢偉自身が最新F1の「空気」であり「現場」なのだ。こんな機会もまた滅多にない。ホンダはこれを逃すべきではない。
【from STINGER text by kyouichi hanehata】
Photos by Caterham F1 Team / LAT Photographic