タイヤバースト事件が気になる-その4:チームは言うことを聞かない?
(その3からつづく)
その1:回転方向とタイヤ性能
その2:なぜ回転方向を変えたのか
その3:トレッド剥離とバーストは別問題
その4:チームは言うことを聞かない?
◆チームは言うことを聞かない?
回転方向もしかりだが、空気圧やキャンバー角など、タイヤメーカーは推奨データをチームに伝える。その指示を守らないチームが存在するのも確かだ。タイヤ・サプライヤーは、性能はもちろん、安全の見地から、推奨データをチームに提供し、チームは、それに則って、タイヤを使うのが正常な形だ。
しかし空気圧は最も守られにくいと言える。当然推奨データがあるが、それが守られないことがしばしば起きる。空気圧を下げると、接地面積が大きくなるからだ。しかし、推奨データを大きく外すと、ひどい時はホイールとタイヤが走行中に大きくズレてしまったり、ビートが外れるリスクが高くなる。
“たとえば、20PSI(日本的に言う1.4kg/平方cm)の指定を19PSI(同じく1.35)で使ったら壊れる、ということなら指示を守る”とあるエンジニアは証言した。しかし、そこまでシビアなことは起こらない。つまり、チームのエンジニアは、多少のことではそう極端ことは起きず、若干高くなるリスクがあっても、速く走れるなら、と考えて低い空気圧を選択したがる傾向にあるのだ。
“安全”という思考回路、要するに安全率の考え方が、日本は特殊かもしれない。日本では、絶対的な安全性が優先されるが、欧米では、その基準が若干緩いことも考えられる。ルマン24時間の舞台で人気の観覧車は、日本では到底許可されないと思える危なさだ。
ギリギリまで攻めるF1の場合、その傾向が強まり、日本人的には理解できないレベルで判断が行なわれる、という側面もあるかもしれない。
ところで、シルバーストンでバーストが連発したタイヤは、今週末に行なわれるドイツGPのホッケンハイムでは大丈夫なのだろうか。ピレリは改良したタイヤを持ってくると言っており、さらに別の安心材料もある。
フェラーリの浜島裕英ビークル&タイヤ・インタラクション・ディベロップ・ディレクターは、シルバーストンでバーストが連発した要因を、”高速である”ことを挙げ、”強い横Gがかかる時間が長い”と指摘。逆に、次のドイツGPの会場であるニュルブルクリンクは、そのストレスが低いことから、シルバーストンに対してシビアさは低いと予測した。
ただし、その後、ベルギーGP(8月25日決勝)のスパ-フランコルシャン、イタリアGP(9月8日決勝)モンツァがタイヤへの負荷が大きく、日本GPの鈴鹿が最もリスクが高くなる。それは、横Gのが長くかかるコーナーが多いからだ。鈴鹿は、1〜3コーナー、デグナー・カーブ、スプーン・コーナー、そして130Rなど、3G以上が長い時間がかかるコーナーを持ち、タイヤに厳しい試練を与える。
これに対してピレリは、今年のマシンとレースドライバーを使う許可がF1Aから降りたドイツGP後の若手ドライバーテストの場でトライしたタイヤを、ハンガリーGP以降に投入する計画を発表している。
いずれにしても、安心できる状況で、かつギリギリの闘いを観たい。タイヤを気遣い、より速く走ることはドライバーやチームの能力によるところが大きいが、タイヤに限らず、いつ壊れるかわからない状態をひやひやしながら見物するのは、シルバーストンだけで終わりにしてほしい。
[STINGER]山口正己