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インディ500にシンパシーがありますか?

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23日に行なわれたインディカー第3戦のアラバマに現れたフェルナンド・アロンソ。右はレースで重要な役割を演じるストラテジストを買って出るチームオーナーのマイケル・アンドレッティ。                                                                      photo by Indycar.com



フェルナンド・アロンソのインディ500参戦で世間が騒がしい。喧しいと書いた方が利口そうに見えるが、パソコンで入力する時しかお目にかからない言葉は使わない主義なので、騒がしいにしておく。それはともかく。

4月9日に決勝レースを行なわれた中国GP終了直後に、『アロンソがインディ参戦!!』のニュースが流れた時、まずは驚いたが、世間の驚きには二つの種類があった。笑顔の驚きと、ナニ考えてんだという眉間にシワが入った驚き。その後、情報が漏れ伝わり、アロンソが4月23日に行なわれたインディカー第3戦のババー・モータースポーツ・パークを訪れる頃になると、大方、賛成派と反対派が、なぜそういう意見をいいたがるかが見えてきた。

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簡単に言えば、『インディ500』の存在を認識しているか否かによって、意見が分かれていることが見えてきたのだ。もっと簡単に言えば、インディが好きかどうかで意見が分かれている。

インディ擁護派の中にも反対派がいる。しかし、それは盲信から、F1GPに対する認識レベルが低いことからお門違いの論評になっている。そこを除けば、概ね、インディ500のポテンシャルを認識しているムキは、アロンソのチャレンジを歓迎している。

私は、1988年から7〜8回インディ500を見物しているが、観る度に認識が変わっきた。最初は、単にアクセルを踏んでいるだけでいいと思っていたが、そうでもないことが、参戦した日本人ドライバーの話で理解できるようになった。エマーソン・フィティパルディやナイジェル・マンセル、そしてネルソン・ピケのチャレンジを観て、難しさと面白さが見えてきた。オーバル・レーシング、なかでもインディ500は、特別な難しさがあることが分かってきたのだ。もちろん、難しいからこそ面白いことも。

一方で、尤もらしい意見もある。「アロンソが、マクラーレン・ホンダの体たらくに嫌気がさして、”インディ500に出してくれないと辞める”とタダをこねたから参戦が決まった」という声もある。しかし、あり得ない。なぜなら、インディ500は特別なレースで、気軽な気分では怪我をするのがオチだからだ。

◆緻密なエンジニアリング

エンジニアリングを例にとっても、F1が緻密で、オーバルはどちらかというとアバウトな世界と思われがちだが、実は、緻密さでは、インディカーのオーバルは圧倒的に緻密だ。そうでなければ、平均時速が軽く300km/hを越すレースは危なくて戦えない。

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“弱オーバー”が最速のセットだが、初心者にオーバーステアは許されない。

通常、最も速いセッティングは、”弱オーバーステア”と言われる。物理的にこれが一番速いそうだが、リスクも高くなる。アンダーステアなら、コーナーアプローチで”行き過ぎ”が察知でき、アクセルを緩めれば事なきを得る。だからルーキーの場合、エンジニアは、セッティングを徹底してアンダーステアに振る。お願いしても、ガンとして聞き入れてくれない。危ないからだ。

“危ない”、という言葉には二つの意味がある。まずは、ドライバーに怪我をさせるリスク。下手をすると、エンジニアのセッティングによって、ドライバーを殺してしまう可能性がある。

高木虎之介のエンジニアを務めた岩下喜博エンジニアから、”エンジニアのジレンマ”の話を聞いた。

「攻め込んでいくと、乗れているドライバーの場合、エンジニアとして、”オーバーにしたい”という誘惑にかられます。自分のドライバーがより速く走るためには、それが正しい方法だから。でも、そうと分かっていても、そこに踏み込むには勇気がいります。彼に怪我をさせてしまうリスクが、オーバーに振った瞬間に圧倒的に高くなるから」

このことを、アロンソが知らなかったとしても、アンドレッティが知らないわけはない。つまり、アンドレッティはこの辺りの状況を認識した上で話に乗った。そうでなければ了解しないはずだ。

了解するとどうなるか。通常、ルーキーには、徹底してアンダーステアのセッティングを行ない、オーバーにすることしないのは上に書いた通り。ドライバーに怪我をさせたくないだけでなく、高価なマシンを壊されたくないという心配のリスクも回避したい。当然、算盤勘定も折り込み済み。だが、それでは速く走れない。その状況を、アロンソは察知できるドライバーで、最初はアンダーステアから始めて、やがて勝負かけるセッティングをするはずである。なぜなら、そうしないと勝てないことを、アンドレッティもアロンソも知っているからだ。

そして、アンドレッティは、レース戦略を立てる”ストラテジスト”を買って出た。本気の証拠だ。

◆アロンソの判断

アロンソは、インディカー第3戦のピットでのインタビューに、モナコを蹴ってインディ500を選んだ理由を、「インディがビッグイベントであることと、モナコに参戦しても5位か6位にしかなれないから」とコメントした。モナコを反故にしたのではなく、グラハム・ヒルに続いて、モナコ/インディ/ル・マンの三大タイトル制覇の夢を実現ずるのは今しかない、と判断した。


7月に36歳になるアロンソにとって、これは極めて現実的な判断だ。F1を辞めたわけでも、蹴ったわけでなもない。今がチャンスとみて、ザック・ブラウンの提案であるインディ500を選んだのだ。それが、不調の代償だったとしても、結果的に、この決定でより多くの人が喜んでいるはずだ。少なくとも私は喜んで、5月の最終週、メモリアルデーと呼ばれる戦没将兵追悼記念日に行なわれる101回目の歴史的なレースが待ち遠しい。

◆アメリカ人にとってのインディ500

アロンソに話を持ちかけたブラウンは、アメリカ人だ。レース

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に興味を持っている人アメリカ人にとってのインディ500は特別だ。40万人が詰めかけるハイスピードオーバルで、アメリカンドリームの実現を何度も観せられていれば、そうなるのは当たり前。ザック・ブラウンは、アロンソと組んで、アメリカンドリームを達成したいと思っている、ということだ。

この話に、アンドレッティも乗った。当然、インディを深く理解しているホンダが同調した。かつて3度のアメリカンドリームを達成しているマクラーレンも。

アメリカでインディ・カーを戦うホンダのスタッフも、この話を歓迎している。F1も経験しているあるエンジニアは、「とても興奮しています」と言った。

アロンソのインディ500チャレンジは、インディの難しさと巨大さ、そして特別感を伝えてくれることになるはずだ。

100回目の記念大会でルーキーのアレキサンダー・ロッシが優勝して日本円にしておよそ2億8千万円の優勝賞金を獲得した。なにから何まで賞金が付き、最初にリタイアしても賞金が出るインディ500。33位から順番に賞金額と共に紹介される翌日の表彰パーティで、アロンソが何人目に呼ばれ、そしてどんな挨拶をするのか。

その前に、誰が牛乳を呑むのか。もちろん、佐藤琢磨の活躍もいつも以上に気になる。最終ラップの最終コーナーで、アロンソと琢磨が争ったとしたら。こりゃ、いても立ってもいられない。想像力を働かせると、楽しみは際限なく広がる。間違いないのは、100回の区切りを終えた初めてのインディ500が、新たな歴史を加えたイベントになることだ。

[STINGER]山口正己
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