ハース6位の立役者–小松礼雄エンジニアの開幕戦1/2
レース後,ハース代表と喜ぶ小松礼雄エンジニア。睡眠不足の疲れが、この瞬間だけ吹っ飛んだ。
新チームハースが開幕戦で6位に入賞した。上位がつぶれた結果、という結論は簡単だ。しかし、その裏には、なるべくしてなった6位への布石があった。
◆いきなりの6位
ちょうど1週間前の2016年開幕戦オーストラリアGP決勝日の夜、ツイッターにこんなコメントを届けたのは、ハースF1チームの小松礼雄エンジニアである。
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たくさんのをメッセージありがとうございます。ホントこの新しいチームにとって素晴らしい結果を出せて嬉しいです。
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2016年F1GP開幕戦オーストラリアGPに、小松が所属するハースF1チームはデビューした。アメリカのNASCARスプリントカップシリーズでは知られたジーン・ハースのチームである。
去年のマクラーレン・ホンダの例を挙げるまでもなく、新参がF1で成績を残すのは簡単ではない。なのにデビュー戦6位。それをあっさりやってのけた。まったくの新チームが、である。
その立役者が、小松礼雄(こまつあやお)さん(40歳)だ。
2003年に、ホンダ・エンジンを搭載したBARチームに新入りとして入り、F1人生をスタートした。その後ルノーF1チームの中枢で活躍、すでに14年目になるF1キャリアを持っている。
◆エンジニアという仕事
6位の結果に湧くチームのパドックをチェッカードフラッグが振られた直後に訪れた。開幕戦が行なわれたオーストラリアのメルボルン郊外、中心地からトラムで15分ほどのアルバート・パークという公園の中に特設されるコースのピット裏である。
新チームだが、すでに木曜日の段階で、雑然とした様子はなく、整然としたムードの中で作業が進んでいた。金曜日のフリー走行にきっちり2台が並んでコースインをまっている。
まだスタッフにあいさつもしていな興奮状態のはずの小松さんに、「今日の結果が、これまでの人生で一番嬉しかったんじゃないですか?」と尋ねた。その反応に驚いた。
「はい」ではなく、「去年のベルギーGPも嬉しかったし、他にもいろいろありますから」という返事だった。冷静なのである。
ある特定のことで片づけず、可能性のあることに瞬時に思考を巡らす。全体を見渡して、正しい答を導き出す。エンジニアに最も重要な素養である。
もちろん、喜びはある。盛んにテレながら、胸の内をこう伝えてくれた。
「睡眠時間がないんです。寝られて1日4時間。だからとにかく眠い」。新チームの準備の大変さが伝わってきた。
F1は整理整頓世界選手権である。ドライバー一人が運転して戦っているのではなく、そのドライバーを走らせるために、何百人ものメンバーが任務をこなしている。世の中すべてが計画通りには進まないものだ。事態に臨機応変に対応して、最も有利な状況を”チームとして”創り出す。それをまとめるのがレースエンジニアである小松の仕事だ。
新チームということは、すべてが未経験、ということだ。イタリアのダラーラがマシン製作を受け持っているとはいえ、そして、今シーズン、パワーアップして好調のフェラーリ・エンジンを使っているとはいえ、それは道具がそろっただけの話。
出来のいいプラモデルがあれば誰が作っても素晴しいモデルができるわけでもない。プロモデラーの完成品は出来が違う、というのと同じだ。
「とにかく忙しくて、それで、準備期間に辞めちゃったメンバーもいて。だから、がんばった分だけ余計に嬉しいです」
去年まで、ルノーのレースエンジニアを務めていた。チームにいたロメイン・グロジャンがチームを去って新チームに移籍することになった。そしてチームに「是非」と小柄な、でも頼りになるアヤオを推挙した。
小松は迷ったが、実績があるけれど、F1が本来あるべき姿から、ビジネスに利用しているだけのようなザラザラした流れを感じるチームを去って、未知数だけれど”創り上げていく喜び”を求めてハースを選んだ。
(2/2につづく)