GPホットライン 09-13 イタリア
伝統のモンツァは、沈滞気味だったブラウンGP復活の舞台となった。ホンダから受け継いだ初年度、1年生が伝統のレースで1-2フィニッシュ。そして、フェラーリは、ティフォージの声援をしっかと受け止めたK.ライコネンの手で3位。コースに流れ込んだ観客が見上げる表彰台は、いつものように神々しいムードにあふれていた。クルマ好きのエディター・羽端恭一さんとスティンガー編集長が、イタリアGPの裏舞台をズバリ診断する。
◆ハミルトンにも優勝のチャンスはあった!?
羽端恭一(以下、羽端)イタリアは、私があんまり好きじゃない!?(笑)ブラウンの勝利で……。
STINGER(以下[STG])え、どうして?
羽端 いやいや、「あんまり好きじゃない」というのは、もちろんジョーク(笑)。またブラウンか”楽勝”してしまったし。
[STG]なんだ(笑)。
羽端 国でいうなら、イタリアは、かなり好きです。食い物もうまいし、映画もおもしろいし。
[STG]イタリアGPは、ヨーロッパ・ラウンドの最後とあって、モーターホームでも、いつもより力が入って美味かったです。フェラーリはもちろん、レッドブルのエナジー・ステーションは、今年の倹約ムードの中で秀逸でした。
[STG]私にとってイタリアGPはかなり特別なんですよ。1986年に初めて観たヨーロッパラウンドがモンツァだったので。なにからなにまで圧倒されました。この話を書くだけで日が暮れそう(笑)。
羽端 例えば?
[STG]わかりやすいところで言うと、それまでアメリカでしかF1を観たことがなかったから、マシンを運ぶトランスポーターが、ぴっかぴかで猛烈かっこよかった(笑)。
羽端 マニアにはたまらんでしょうね。
[STG]いや、マニアでなくても、カラーリングもだし、とにかくきれいにしているから、感激してくれると思います。それに、並べ方が、それこそミリ単位じゃないか、と思えるくらいピッチリしている。のち
に”F1は整理整頓世界選手権だ”といいだすきっかけになっています。
羽端 なるほど。ところで、ブラウンの話ですけど(笑)、下位からではなく、あの位置で、ワンストップ作戦を巧みにやられちゃったら、ほかのチームは、どんなに速く走っても勝てないよね?
[STG]実は、ポールポジションを取ったL.ハミルトには、ある”策略”があって、それがうまくいけば優勝のチャンスがあった。
羽端 というと?
[STG]マクラーレンは、ハミルトンが軽い燃料の2回ピット作戦に対して、コバライネンが重い燃料で1回ピット作戦だった。コバライネンが多少重くても、スタートでKERSを効かせてブラウンの前に出て、後続を抑えるや役目をらせて、その間にハミルトンをどんどん逃がす。
羽端 なるほど。しかし、コバライネンがスタートをしくじってますね。
[STG]コバライネンは、「今日のレースは最低だった」と言ってます。それは、もちろん自分のレースでもあったけれど、チームを助けられなかった、ということもふくんでいるかな、と。
羽端 ワンストップというのは、マシンの重量が時間帯によって大きく変わるから、運転手にとっては辛い作戦ともいえるのでは?
[STG]タイヤも長い距離を走ることになりますからね。
羽端 なので、その”ハード・ジョブ”をちゃんとこなしたブラウンの二人のドライバーに、今回はスタンディング・オベーションします。拍手〜〜!(笑)
[STG]そういう”レースの巧さ”がトヨタにあればなぁ、と。
羽端 マシンがいいだけじゃなくて、多少戦闘力が落ちるクルマでも優勝できる、という。
[STG]まぁ、遅くちゃ話になんないですけど(笑)。いいクルマとレース運営は、どっちも大切です。今回、レッドブルが不調だったのは、モンツァのローダウン・フォースのコースにマシンが合っていなかった。
羽端 あと、前にいたバリチェロがちゃんと勝ちました。ブラウンは、ヘンな”チーム・オーダー”のカケラも見せなかったというのも、よかったですね。
[STG]確かに。でも、マクラーレンの例のような形で”高度なチームオーダー”を展開してくれるというのはありかも。
◆ルノーのチームオーダー説について
羽端 ”チーム・オーダー”といえば、ルノーが何やかんやいわれてますね?
[STG]あぁ、去年のシンガポールGPでの超高度なやつ(笑)。
羽端 そもそも、去年のシンガポールって、どういうレースだったの?
[STG]ネルソン・ピケがクラッシュしてセーフティカーが入ったんだけれど、絶妙なタイミングで、アロンソがピットインして大逆転優勝を遂げました。
羽端 だったら悪くないんじゃないの?
[STG]アロンソがピットインしたタイミングが、もう、絵に描いたようにジャストミートで、「ピケにわざとクラッシュさせたんじゃないの?」というジョークがでたくらいだった。
羽端 それがジョークじゃなかった、と。
[STG]ネルソン・ピケが、ルノーを解雇された腹いせにそれをブラジルのグロボというテレビ局にしゃべっちゃった。クラッシュする場所まで細かく指示された、って。
羽端 わざとクラッシュするなんてできるの?
[STG]F1は、凄まじいエンジン・パワーをコントロールして走っています。ちゃんと走るのは難しいしけれど、スピンするのはむしろ簡単(笑)。
羽端 なるほどね。ハナシとしては、おもしろいっていえば、おもしろいけど(笑)。でも、なんか「ハナシ」だけなんだという気もするな。
[STG]真実がどうかは分からないけれど、現在裁判で調停中で、そのうちなにか結論が出ると思いますけど。
羽端 うん、アロンソが、たまたまでも勝ったというリザルトがまずあって、その「勝因」というのを探っていったときに、そういえば絶妙のタイミングでセーフティカーが入ったなということになり──?
[STG]そこから、「都市伝説」みたいになった、と考えたいですね。F1のイメージとしては。
羽端 これって「ブリアトーレ」のキャラというか、あんまり好かれてないというか、あいつならやりそうというか(笑)、こんなイメージ問題も絡んでないですか?
[STG]それはわかりません。
羽端 一番ソボクなギモンは、ぶつけたり、コースアウトしたりというのは、ピットからのオーダーでできるかもしれないけど、セーフティカーが入るかどうかということまでは、チームやピットで
は読めないのではないかということ。
[STG]その件に関しては、完全に読める、ということができると思います。F1やアメリカのインディカー、それからナスカーなどの高度なレースでは、さまざまなデータが計算されていますから。F1では、マシンから飛ばしているデーかがピットを経由して、本拠地にも飛んでいる。例えばトヨタの場合、ファクトリーのあるTMGケルンでも、現場とデータを共有している、という凄まじい時代ですから。
羽端 なるほどねぇ。しかし、バレたときのリスクが大きすぎないですか? ヘタしたら、レースできなくなるかもしれないわけで?
[STG]問題はそこです。ルノーとしては、そんなことやりっこない、という立場ですね。この話題が盛り上がったイタリアGP先日の木曜には、「この件に関しては一切述べない」というリリースをルノーは出してます。裁判というわけです。
羽端 チームの全員に「箝口令」を敷くこと、ちゃんと黙らせることは、なかなかむずかしいのでは? 誰かが何かの拍子に告白しちゃうかもしれなくて?
[STG]その”チーム員のひとり”だったピケがしゃべっちゃったワケですからね。
羽端 あ、それがジュニアだったってことか?(笑)。
[STG]極論から言うと、こうしたスキャンダルも含めて”話題”になるのは、F1にとってはいいことかも(笑)。
羽端 そう願いたいものです(笑)。