ただのボンボンではなかった?!–アゼルバイジャンで初表彰台のストロール
F1史上最大の持参金と言われた父親の後ろ楯をひっさげて、ウィリアムズ・グランプリ・エンジニアリングの2017年ドライバーになった。
金持ちのボンポン。カナダ生まれの18歳、ランス・ストロールを人はそう呼んだ。もちろんそこには、若干の、でも明確な僻みが混在した嘲笑のムードも含まれていた。第7戦のカナダGPで初ポイントを取ったときも、”それなり”の評価でしかなかった。
ところが、アゼルバイジャンGPは様子が違った。世界遺産に抱かれたバクーの狭い市街地コースは、凄まじく高速だ。スピードが高まれば、リスクも比例して増大する。スタート前や、リスキーを証明するように連発したアクシデントで導入されたセーフティ・カーのタイミングで、他のコース以上に、執拗に大きく蛇行させてタイヤを温めようとしているドライバーが、さらにリスクを強く感じさせた。
そのコースで、1998年10月29日生まれの18歳の少年は、予選も決勝も先輩マッサに先んじ、F1グランプリを完走し、表彰台を手に入れた。リスクをコントロール仕切った者だけに完走が許される超高速レース。ある種、インディ500と同じようなリスクマネージメントが要求されるコースでの表彰台は、他のレースとは別の賛辞が送られてしかるべきものだった。
今年のウィリアムズの二人のドライバーの8戦の予選と決勝レースの成績を見ると、ストロールが、ジワジワと成績を上げていることが分かる。チームメイトが、出戻りとはいえ、8戦中7回Q3に進み、6戦に入賞しているテクニシャンのベテラン、フェリペ・マッサであることも、指標としてストロールの評価を明確にしている。
デビューの2017開幕戦オーストラリアGPから3連続リタイアを喫したストロールは、そこでF1の厳しさを味わって、”金持ちのボンボン”という見方がパドック内で強くなっていた。テストから何度も同じようなクラッシュを繰り返していたから無理もない。その後の3戦も、完走するだけだったが、後から見ると、完走できるレベルにステップアップしたとも取れる。
そして地元カナダで初ポイントを獲得、アゼルバイジャンの表彰台につながった。アゼルバイジャンでは、ゴール寸前でボッタス+メルセデスに抜かれて、劇的に2位を失ったが、2位でも3位でも表彰台は表彰台だ。むしろ、そのドラマチックなエンディングが、ストロールのお株を上げた。
逸材には、ドラマが似合う。18歳でトロロッソからレッドブルに大抜擢されたマックス・フェルスタッペンがいきなり優勝したように。
ランス・ストロールは、単なるボンボンではなさそうなことをかいま見せた。しかし、まだまだここはスタート地点。18歳がどんな戦いぶりを見せるのか、ここからの正念場に注目だ。
[山口正己/STINGER]
Photo by WILLIAMS F1 TEAM / LAT Photographic