ホットライン 2016 round20 / ブラジルGP–雨のスペクタクル!!(2/2)
激しい雨がレースをこれ以上ないスペクタクルな舞台に仕立てた。リスキーな状況の中で、勇気とテクニックが試される凄まじいレースだった。
一方で、フェリペ・マッサが最後の母国GPで、”つながる素晴らしさ”も感じさせたサンパウロの戦いを、クルマ好きのエディター・羽端恭一さんとSTINGER編集長が振り返る。
◆最終戦までもつれ込んだチャンピオン争い
羽端恭一(以下、羽端):それにしても、ルイス(ハミルトン)はエラい!と思いました。ほんと、改めて感心しましたね。
STINGER編集長(以下、STG):それは?
羽端:ひとつは、最終戦まで、ファンの興味と関心をつなぎ止めたことです。消化試合は作らないというか、最後まで、ちゃんとF1のテレビ見ろよ!と、世界に向けてアピールしている。
STG:なるほど。オーガナイザーも嬉しいし、我々も嬉しい(笑)。
羽端:もうひとつは、まったく諦めていないというか、ファイト満々であること。ここは勝つと決めたら、その通りにしてみせる。この実行力というかポテンシャルというか。(勝つと)思うだけじゃなく、それをちゃんと現実化するチカラというか。
STG:流れがうまくいった時のルイス・ハミルトンでしたね。ミハエル・シューマッハもそうでしたが、崩れると案外弱い。なので、順調な流れになると、ハミルトン本人だけじゃなくてエブリバディ・ハッピーになるってことかも。
羽端:簡単にはチャンピオンの座は渡さないぞ、というルイスの闘志。そういうルイスのアスリートとしての行動。それって、けっこうカッコいいと思う。
STG:ですね。これにロズベルグの”内面”がどう動くか、ですね。
羽端:ニコの方は、ブラジルで勝たなくてもよかった。また最終戦でも、もし表彰台なら、それでチャンピオンになれる。ですから、ニコが圧倒的に優位である現実は変わらないわけですが。
STG:どっちがチャンピオンかを考えたときに、実は、”強いものが勝つべき”と思って、ルイス・ハミルトン擁護派だったんですけど、ちょっと考え方を変えました。
羽端:お、それは?
STG:今年はニコ・ロズベルグにチャンピオンになってもらって、来年、ルイス・ハミルトンと”ディフェンディング・チャンピオン”として、つまり最新のチャンピオンとして闘ってもらう、というのも面白いかな、と(笑)。
羽端:ははあ。それはいいかもしれない。
STG:今年がゴールではなくて、スタート地点と思えば、その観方もありかな、と(笑)。
羽端 ええ。チャンピオン同士の”濃い”闘いですね。ただ、そのためには、今年ニコが勝たないといけないわけで。それで、いまの状況というのは、やっぱりニコがチャンピオンには近いところにいますよね。
STG:数字の上ではその通りですね。
羽端:ただ、どうなんだろう? もしニコが、そうした優位性をタテにとって、たとえば最終戦、表彰台でもチャンプ決定だとか。そうした一種、消極的な気持ちでいるとしたら? 勝負事にはツキも必要で、そして、貪欲でないとツキだって逃げますよね。
STG:まさしく。というか、そうしてもっともらしく勝手に妄想できるのがモーターレーシングを楽しく観る妙薬ですから(笑)。
羽端:あくまで「勝ちに行く」ことによって、初めて2位も手に入るんだ、と。だから、アブダビでは勝ってほしいですね、ニコには。そうやって、チャンピオンを決めてほしい。ルイスだけでなく、マックスより遅かったけど、でも、年間チャンピオンになりましたとか。そういうストーリーは、ちょっとやだな、と。
STG:着実な計算より、感覚的な鋭さを見せてほしいですね。しかし、そうなると、やっぱりルイス・ハミルトン、てことになる? まぁ、勝負は来年、という考え方もある、ということで(笑)。
羽端:あ、ちょっと「回数」を数えてみたんですよ。するとね、今年20戦やって、ルイスもニコも「9勝」してます。
STG:そうですね。
羽端:言い換えると、年間9勝して、しかしチャンピオンにならなかったドライバーというのが、今年誕生するわけです。どっちがチャンピオンになってもね。
STG:なるほどね! 皮肉なことに、ニコのお父さんは1勝だけでワールドチャンピオンでしたね。
羽端:最終戦で、二人のうちどっちかが勝てば、年間10勝。これはチャンピオンとして見事な数字で。
STG:まぁ、データはデータでしかない、というか。どうあっても、F1はすごいことをやっている、ってことが、雨のブラジルでよく分かりました。
羽端:こんな”数字遊び”ができるのも、今回、ルイスが勝ってくれたからなので。いやあ、ほんと、大したもんだ、ルイス様は(笑)。
◆フェリペ・マッサ、祖国でのラストラン!
羽端:ところで、マクラーレン・ホンダは、結果的には1ポイントを取りましたが。
STG:スタート時点では、もう少し活躍を期待してましたけど。
羽端:冴えなかったというのは、ブーリエも認めるところのようで。今回は忘れてしまいたいレースになった、という意味のことをコメントしてますね。
STG:もっとできた、ということで、もったいないレースでしたね。
羽端:終盤に、スピンから最下位にまで落ちて、そこから抜き返して10位をゲットした。こんなアロンソに拍手はしますけど。
STG:それも併せて『結果』ですからね。
羽端:長谷川さんが、今日走ったすべてのドライバーたちの勇気とドライビングテクニックに畏敬の念を抱くというようなコメントをされてましたが、これには心から同意です。雨で、路面のグリップはもとより、何より視界的には、前はほとんど見えなかったはずなので。
STG:見えないことより、雨ってのは、常に同じだけ降ってくれない。つまり、コーナーの先がどう滑るかビクビクしながら進んでいく状況なわけです。事前の予測ができ難い、という状況は、走っていて最も怖いわけで、そこを見越して高速で移動するのは、度胸も必要ですけど、それを回避できる絶対の自信がなければならないわけです。そこがフェルスタッペンは、若くて怖さを知らないことを差し引いても、見事でした。
羽端:いろいろな面で、F1の凄さが再認識できたレース。
STG:まったく。しかし、こいういレースを毎回見せられたら、疲れちゃってたまらん。いや、やってる方はもっとそうか(笑)。
羽端:それと今回のレースは、フェリペ・マッサにとって、最後の母国GPで。
STG:ええ、クラッシュしてリタイアしてしまったけれど、その後が実にエモーショナルでした。
羽端:チームも、粋な計らいをしましたよね。クルマに付いているロゴの「マルティーニ」が「マッサ」だった。やるな、ウイリアムズ!(笑)。
STG:リタイヤしてコクピットを降りたら、誰かがブラジル国旗を渡した。ピットレーンを歩きながら、ブラジル国旗を肩にまとって。
羽端:奥さんに続いて、8年間苦楽をともにしたフェラーリを始め、各チームのスタッフが全員出て来て、拍手でマッサを送ってました。
STG:フェラーリ時代には、ハンガリーGPで瀕死の重傷を負う辛いこともあった。もちろん、11勝のすべてはフェラーリ時代です。
羽端:そうでしたね。
STG:最後にお父さんと抱き合って。いやあ、泣けるシーンでした。
ポルトガル語はまるっきりわからないですが、でも、伝わる素晴し
い世界でした。いまは、”小犬みたいに可愛い”と言われるフィリッペ・マッサに、ありがとういいたいです。
羽端:ポルトガル語だからオブリガート!!
STG:激しさ、優しさの両方を感じられた素晴しいレースでした。
[STINGER]
Photos by
WILLIAMS F1 TEAM / LAT Photographic
MERCEDES AMG PETRONAS Formula One Team
McLaren Honda/LAT Photographic
Renault Sport Formula One Team