◆フォーミュラE開幕戦で見えた!/⑧音のないレース
ピットロードに囲まれたステージ上で”演奏”するディスクジョッキー。フォーミュラEの風物詩になりそうだ。
◆フォーミュラE開幕戦で見えた!/⑦から続く。
◆ホイッスルで十分!?
フォーミュラEで最も心配されたのが音だった。
スタートの瞬間、確かに音はしなかった。エンジンの音と共に鼓動が高まる、というのが”普通”になっている耳には、もの足らなさもあった。しかし、これはこれで、ありかもしれない、という気分になった。
そもそも今年のF1は主催者から、魅力が下がったので放映権を安くしろ、という声も上がっていたが、フォーミュラEの静かさはその比ではない。ウィーン、シュルシュル、ヒュ〜ンだけである。タイヤのスキール音はするが、そういう静けさの中だからこそ、最後のアクシデントのインパクトが大きく感じられた気がしないでもない。
においも、通常のレースと変化はない。その昔、カストロールという植物性のオイルが、ラジコン機のエンジンのひまし油と同じ芳香を放っていたことがあったり、1980年終盤のターボエンジン最盛期には、目に染みる添加剤の悪臭がビットガレージに充満したりしたことがあったが、フォーミュラEの会場では、そういう変化は何もなかった。
それより面白いのは、ホイッスルである。ピットレーンでホイッスルが鳴ると、マシンが通過する。音もなく近づくので、ホイッスルで注意喚起をしているのだが、レーシング・コースでホイッスルという想像は普通浮かばない。しかし、フォーミュラEではそれで十分、ということだ。
静かなフォーミュラEなのだが、プラクティス、予選、決勝とも、セッション開始と同時に、スピーカーから大音響のBGMが流される。大きなヘルメットを被ったフォーミュラE専用DJが、ピットロードに挟まれたステージで活動を開始する。これも過去のレースにはない演出だった。
[STINGER]山口正己
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